万葉の恋 第12夜
2015.12.12
街並みは、様々な
イルミネーションに彩られていた。
冷たい空気を包み込むように
輝く温かい光達。
それを見ながらベンチに座って、
コーヒーを飲む。
吐く息が白い。
“独り身にクリスマスはつらい”
とかよく聞くけど、私は、好きだった。
特に、この時期。
いつにも増して、
人々の笑顔が優しく穏やかに見える。
子供達の笑顔は
これから来るイベントへの
カウントダウンで輝いて見えた。
そっと左手の手袋を外す。
「早く、売らなきゃな」
左指に光る指輪。
去年、三上からもらった
偽装結婚報告の為の指輪。
事が終わったら、
売っていいという約束でのっかった。
そういう言い訳をした。
「・・早く手放さなきゃ」
左手を広げて空に掲げる。
薬指、約束の石がキラリと光る。
50万か・・
手袋をするようになって、
短い時間だけ指輪をするようになった。
何したいんだか・・
あの日の温度を、感覚を、声を
もう1度なんて言えない。
それでも忘れたくなくて
未練たらしく指輪を手放せない自分が
心の底から、可哀想だった。
あの日、私の腕の中で泣いた彼は・・
・・驚く程、何ひとつ変わらなかった。
何事もなかったかのように、仕事をして
私との距離も全く変わらない。
お母さんにいたっては、
・・元気になっていた。
三上がたくさん調べて、病院を変え、
開始された新しい治療が幸運にも、
お母さんには合っていたらしく、
効果を表した。
彼は、こっちに
呼びたかったみたいだけど、
元気になったお母さんは、断固拒否。
体調や病院の事は、その都度必ず話す事。
彼も、できるだけ帰る事。
それで、折り合いがついたようだった。
何はともあれ、・・よかった・・。
・・・・・。
左下から感じたナニかに
ゆっくり視線を移す。
私を見上げる大きな瞳。
世の中の汚いものなんて、
まだ何も見えていない。
真っ白で、
まっすぐな気持ちしかない世界に
住んでいる女の子が
こっちを凝視していた・・。
とりあえず
人としての礼儀を尽くす。
「こんにちは」
私の声に
「こんにちはっ」
勢いよくお辞儀をする。
背中に背負ったクマのリュックが
後頭部まで逆さまにすべってきた。
ベンチを降り、彼女の横にしゃがむ。
「ごあいさつ上手ね。」
ほめられてるのがわかったのか
嬉しそうに、ニコっと笑った。
「1人?」
・・そんな訳ないよね
周りを見たけど、
それらしい人はいなかった。
「パパかママは?」
「あっち」
あっち・・
彼女が指さした先には、
クリスマスツリーしかない。
・・どうしようかな
「ゆうなっっ」
少し遠いところから、聞こえた声に
女の子と一緒に振り向く。
ツリーとは真逆の方向だった。