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万葉の恋 第14夜


「・・・」


「・・・できたじゃん。」


乱れる呼吸の中、並んで天井を見上げる。

・・・・。

私より彼の方が呆然としていた。

そりゃ、そうだ。


「・・レン」

「ん?」


「お前、本当は男、」
「バカじゃないの・・シャワーあびてくる」


体を起こした私の背中に声がかかる。

「なぁ、今日、泊っていっていいか」



「・・ソファで寝てね」




頭から伝うお湯が、頬を流れる。


泣けばよかった。



あの日の彼のように、泣くだけ泣いて
求めなければよかった。


“やっぱり、俺には無理だ”

それなら、それでよかったのかも
しれない。


なのに、
「……なんで、できたのよ」

自分から欲しがったくせに。
文句つけるとか。

救いようがない。

肌を滑るお湯は、流すどころか、
彼の感覚を強くするばかりで


彼の手は、あまりに優しくて
腕を伸ばせば、抱きしめてくれた。

見た事もない目で私を見て
唇を重ねたら、応えてくれたから、

結局、また夢を見た。

彼との道が交わる夢。

忘れたかったのに
終わらせたかったのに


自分がどれだけ欲深い人間だったか
思い出してしまった。

底なしの沼にはまり込んでいく、
ただ息が苦しくなっただけ


ホントに


「どうしようもない・・バカだ」




リビングに彼の姿はなかった。

テーブルの上に1枚の紙

『今日は 帰るよ。また会社でな』



次の日、私は人生で初めて“仮病”を使った。


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