万葉の恋 第20夜
3.18
担当の引継ぎ、向こうでの生活の手配、
韓国語と出版に関する知識を叩き込んだ。
頭、パンクしそう。
明日から3連休は
家の片付けの予定にしていた。
「行けるか?」
?
気づけば、オフィスには
彼と私しか残っていなかった。
「どこに?」
「マスターに挨拶」
「あぁ、・・そうね」
久しぶりに並んで歩いた。
~・~・~・~
「えぇぇぇぇぇ」
・・・・。
そんなに広いとはいえない店内。
マスターの声は、よく響いた。
灯りを落とした雰囲気が台無しだ。
「久しぶりに顔見れたと思ったら、
レンちゃん、韓国に行くのぅ?」
「ん~、まぁ、なんか
急に決まって。ちょこちょこは
帰ってくるよ・・たぶん」
「淋しくなるわ」
「ありがと。・・私も淋しい」
素直に言葉が出た事に
ちょっとビックリして、
思わず頷いてしまった。
「帰ってきたら、絶対寄ってよ。
お洒落な水、サービスしてあげるから」
私が笑うその横で
彼は、静かだった。
~・~・~・~
「元気でね」
「マスターもね」
わざわざ、扉の所まで
見送りに来てくれた。
あっ、
そう言ったマスターが急に私の手を取る。
?
たくましく、頼りがいのある両手と
“キラキラ”という形容詞
そのまんまの目を交互に見る。
声が弾む。
「もしね、あっちのアイドルと
会う事があったらサインもらってて。
あっ、連絡くれたら、取りに行くから」
アイドル・・
簡単に会えるとは思わないし・・
「私、あんまり詳しくないけど」
見かけたとして・・気づけないと思う。
「じゃあ・・バンタンがいい。
バンタンソニョンダンって
7人組のグループ。
・・あの子達、きっと伸びるわよぉ」
「ば、ばんたん?
・・あ~うん、覚えとく。」
「約束よ、7人だからねぇ。
ラッキーセブンよぉ。じゃあね~」
手を振った私の背中を
ママの声が、しばらく追ってきた。
ばんたん・・ね。
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