世界遺産バッファゾーンの議論における仁和寺門前ホテル建設の位置付け〜京都弁護士会「意見書」の批判的考察〜(仁和寺門前ホテル建設問題その3)
(画像は『世界遺産と緩衝地帯』p17より)
この記事は以下の3部作の第3部です。
1. はじめに:京都弁護士会の主張について
仁和寺前ホテル建設問題については、2021年6月25日に京都弁護士会が京都市長ほか宛に提出した「意見書」があります。そこではいくつか論点が出されておりますが、そのひとつに、世界遺産バッファゾーンにホテルを建築することへの疑問があります。
少し長くなりますが該当箇所を引用します。
この最後の、「これらの規制は世界文化遺産のバッファゾーンの保全の制度としても機能しているのであり、これらの制限を容易に緩和することは許されない」とする結論については、断言して良いものではなく少なくとも議論の余地がある、あるいは、解釈が間違っている可能性があると私は考えております。以下、その理由を述べます。
2. 世界文化遺産においてバッファゾーン(緩衝地帯)は開発不可能な土地ではないです
同意見書では、「世界文化遺産のバッファゾーン(緩衝地帯)には、資産の「完全性」「真正性」を効果的に保護するために必要な法的規制がなされる必要がある(作業指針§104)。」そして「世界文化遺産のバッファゾーン(緩衝地帯)には、資産の「完全性」「真正性」を効果的に保護するために必要な法的規制がなされる必要がある(作業指針§104)。」とありますが、これについては大きく間違ってない解釈であると私も認識します(ただし完全性、真正性がどのようなものを指すかは議論が必要ですが、ここでは割愛します)。ちなみにこの意見書内にあります「作業指針」とは、ユネスコの「世界遺産条約履行のための作業指針」を指しています。こちらから全文を日本語訳で読むことができます。
しかしバッファゾーンについては、京都弁護士会が主張しているような、当初定められた開発規制を厳格に守り続けなければいけないということではありません。むしろ逆に、それによる地域的な「孤立」が世界遺産委員会で危惧されていたりもします。ユネスコの世界遺産文書第25号『世界遺産と緩衝地帯』では、以下のような文章があります。
としています。つまり、歴史とともに周辺環境も変化し、社会的、文化的、経済的にそこから「ガラパゴス化」することは、バッファゾーン地域にとって望ましいことではない、と。またそれは世界遺産が社会性のない使われ方をすることにも助長しかねない、という危惧が呈されているのです。
加えて同文書の別の箇所では、バッファゾーンの規制を厳しすぎるものにすることによって、バッファゾーンから外れる外縁の開発競争を激化させ、かえって世界遺産の文化的価値を損ねることにもつながりかねない可能性にも言及がなされています。
3. バッファゾーンでやってはダメな開発とは?
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?