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きみは電話応対コンクールを知っているか

きみは「電話応対コンクール」を知っているか。

電話応対コンクールは、各企業の社員の電話応対と応対技能のレベルアップを通じて、顧客満足経営の推進を図るための人材育成を目的として毎年実施しています。参加者は、毎年設定される競技問題に取り組み、電話応対サービスの技能を競い合います。

これは主催団体の弁だ。要は、電話応対を試す大会である。昨年度は全国から8000人が参加した、規模の大きめなコンクールだ。
「電話応対」というくらいだから、話し方とか声量とか敬語とか、そこらへんのセンスが試されると思いがちだ。ただこのゲームの本質は「事前の対策」である。
先の引用部分で注目したいのは「毎年設定される競技問題」。「設定」の言葉通り、電話を受ける「選手」は、ある会社の社員になりきり”お客さま”の話を聴く。

2021年度の大会の「設定」を見てみよう。

自分は……清掃会社の北島純さん……?
個別メニューとセットメニューとオプションメニューがある。金額も設定されている。ここで、「問題」にある「適切な説明」「会社の業績向上」という文言の真意が明らかになる。
「ご注文の流れ」も「よくある質問」もみっちりと書かれている。「問題」に無意味なものは書かれない。そう、つまり……

2021年度のゲームのルールは、「この清掃会社が存在する世界」に「北島純」として立ち、何を言い出すかわからない「客」を相手に、「株式会社の社員として」最適な回答を正しい言葉と態度で伝える、これを時間3分みっちり行うことである。

え?

客が「洗剤に害がないか不安だ」と言い出す。北島純はすぐさま「人体には影響がない」ということを告げる。客が「家にエアコンが2台ある」と言い出す。北島純はすぐさま「2台まとめて掃除をすると5000円引きになる、室外機の洗浄もオプションで承る」ということを告げる。客が「前回と同じ人にお願いできるか」と言い出す。北島純は「可能な限り前回と同じスタッフが行く」と告げる、その前に「今回も当社に依頼いただき誠に……」と告げる。前回も今回も「自分」自身には存在しないが、「北島純」には、前回も今回も、在る。

この「問題」のpdfを見ていると、〈「自分」は誰だ?〉という疑問が溢れ出す。
運営団体のサイトにはFAQが淡々と載っていた。

わからないことが多すぎる。解決の糸口を探るにはFAQを頼るしかない
うっ うわあぁぁっ

もう逃げ場はないのだ──

──「お電話ありがとうございます! ユーザークリーン札幌営業所、北島でございます!」
ここには8000人の北島純がいる。

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