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どうやら本当に付き合っている私たちは、これから

どこからどう見ても付き合ってる感じの会い方だけど、「付き合ってない」と宣言されたのでとりあえずセフレと定義しているBさん。

Bさんには敬愛する上司がいる。
厳密に言うと上司ではないようだが、社内ですごくお世話になっている人。この町に転勤してきてから、仕事の何もかもをその人に教わったそうで、Bさんの話にはその人が頻繁に登場する。名前を仮に平泉さんとする。(BさんはBさんなのに、上司に立派な名前つけてるの何?)

先日の夕方、
「きょうは平泉さんと◯◯!」
とLINEが来た。
◯◯は私たちがいつも行く居酒屋である。私の家から近く、かつ店がガラス張りになっているため、冗談半分で
「あら。外から覗こうかな笑」
と送った。
Bさんが平泉さんと私を会わせるとは思えないが、噂の平泉さんをチラ見してみたいなー、ぐらいの気持ちだった。
予想に反してBさんからは
「いいねー。来る?」
と返信が来た。
戸惑いつつ
「いいの?ほんまに行っていいんやったら行きたいけど」
と送る。
そこからしばらく返信が途絶え、45分ほど経ってから
「すまん!あとでにしよ!」
と送られてきた。
念のため身支度をしていたので若干肩すかし感はあったが、まあそうだよね、と思い「OK」と返す。

1時間ほど経ったころ、Bさんから電話があった。例によって店のトイレからかけているらしく、水音が聞こえる。
「ごめん。彼女紹介したいから呼んでいいですか?って平泉さんに言ったら、呼びーや!ってなるかと思いきや『心の準備が必要だからきょうは無理』って言われて。ごめんな。平泉さん帰ったら店来る?それで二人で飲む?」

彼女紹介したいから

ちょっとそのワードが強すぎて平泉さんどころではなかったが、平静を装い
「うん、そうしよ」
と答える。
「じゃあ終わったら電話するわ。ばいばい」
「はーい」

さらに1時間が経ったところで、再び電話がかかった。
「もうすぐ終わるけど、やっぱどうしてもおまえを平泉さんに見せたいから、来れる?平泉さんは足止めしとくから」

どうしてもおまえを平泉さんに見せたいから

パワーワードを胸に刻みつつ、
「わかった。すぐ行くわ」
と答えて急いで家を出る。
身支度しておいてよかった。

平泉さんはとても良い方だった。Bさんをすごく可愛がっていて、Bさんも平泉さんを慕っているのが伝わってきた。
一緒に飲んだのは10分くらいだったが、すっかり酔っていたBさんが私の肩に頭を乗せてきたり、平泉さんに向かって「(私のことを)大好きなんで」と言ったりしたので大いに照れた。きょうはパワーワードが多すぎる。

「またゆっくり飲みましょう」
と平泉さんが帰っていくのを見送り、Bさんと二人でもう少し飲んだ。
いつもは向かい合わせだが、さっきの席のままで座ったので4人掛けの席に隣同士。距離が近い。

「ありがとう、来てくれて。しかもきれいにお化粧してきてるやん。失礼がないようにって思ってくれたんやな、ありがとうな」

気づいたんだ!?と驚く。
たしかに化粧をし直していた。といってもメイク自体はいつも通りで、ミラコレをいつもより入念にはたいただけだ。ミラコレの威力すごい。(ミラコレについてはここから)
なんだかまた照れてしまい、
「お化粧自体はいつものままやで」
と言ったら
「分かってるよ。でも仕事終わってからまたちゃんとし直してくれたんやろ。髪の毛もきれいになってるし、髪留めも気合い入ってるときのやつやし」
…私が手をかけたポイントを全部言い当ててくれた。オシャレしがいある〜!

「ほんま困ったもんやわ。…俺めっちゃおまえに惚れてるわ」

(↑関西弁だとやしきたかじん過ぎるので標準語に直そうかと思ったけどそれも変なので関西弁のままお送りします)

「困ったなあ」
酔っていたせいかもしれないが、私の頭を撫でながらそう繰り返すBさんは、ほんの少しだけ涙目だった。

「なんで困るん?」
「だって、俺おまえを泣かしちゃうから」

結婚するとは言えないから、という意味だろう。たぶん。


たしかに、結婚できないならこのお付き合いのゴールって何なんだっけ?意味なくない?
と、少し前までの私なら思っていた。

でも、いまは少し違う。
そもそも私たちのゴールは「結婚」「別れる」の2択ではない。
来月にもどちらかがこの町から離れるかもしれない。数年後には転職するかもしれない。行き来できないような遠い場所に行くかもしれない。遠距離で関係を続けるかもしれないし、続けないかもしれない。続ける気があっても続かないかもしれない。はたまた天変地異があって結婚するかもしれない。
環境も感情も、多分どんどん変わっていく。いままでもそうだったように。

…こんなにも分からないんだから、まあ、いま無理矢理ゴールを決めなくてもいいか。と思い始めた。
だいたい、結婚に向けて最短距離を走りたいからBさんと別れて別の人を探す!というのも全然イメージできない。アプリでまたいろんな人に会う気力もないし。

どこに向かっているかなんて分からないし、あとから振り返ったら「あの町での出来事はただの寄り道だったな」ということになるかもしれない。
でもしばらくは、この道のりをBさんと一緒に思いきり楽しんで歩こうと思う。

だから私も、もちろんBさんも、泣かなくていいのだ。

その場ではそんなふうに言えなくて、私はただジョッキに入ったレモンサワーを飲み干した。

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佐久間ゆい
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