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魚の視界 〜水面、空中に対して〜

 魚は色盲であるとか、極端な近眼であるとか、いろいろ言われます。しかし、明暗、色彩を感知する2種の視細胞は十分な数があるようですし、魚眼レンズという言葉の元になったまん丸な水晶体(眼のレンズ)も、実は屈折率が水に近いため、あのくらいないと光が曲げられないのだとも言います。私は、実体験から「人間が考えている以上の視力はある」「こちらから見えている以上、あちらからも見えているだろう」と考えています。

魚の色彩感覚の詳細な話はこちら「魚の視界Part2(すごい色感覚)」を参照してください。「魚は色盲」どころか、想像以上ですよ……。

 ということで今回は魚の視覚、特に水中から見た水面から上、空中に対してのそれを考えていきたいと思います。もちろん、こちらからも魚が見えないような、濁っている釣り場や、深い湖/海の場合は無視していい話です。

●フライラインの色は魚に影響するか?

 以前、フライフィッシングで使うメインの重量を担う糸(=フライライン)の先に付ける透明なリーダー、そしてハリス(ティペットと言います)の合計の長さを14フィート〜18フィートと、ムチャクチャ長くするのが流行りまして……そんなに長くしたらトラブルが多くて面倒なだけでは?と思ったのです。竿が8〜9フィートしかありませんから。
 その提唱者さんたちを含む何人かのビデオを見ていて気付いたのは、フライラインの色が派手……ピンク、蛍光黄色、蛍光オレンジ。もちろんビデオ映えを考えればその方がいいのでしょうが、はて?……となったのです。

 昔から「着水してしまえば魚には影響がない」などと言われていた、人間からの見やすさ優先の、派手なフライラインの色。実は私、学生時代にオイカワ相手に散々テスト済みだったのです。結論としては「着水する以前の、空中を飛んでいるときには明確に影響あり」です。
 オイカワは、中流部に棲む小型魚ゆえではありますが、カワセミやサギの仲間をはじめ、さまざまな鳥に狙われています。空を飛ぶ明るい目立つ色のフライラインは、明らかに釣果が落ちるどころか、ときには、群れを追い散らすくらいのインパクトがあります。考えてみればカワセミの色は、背中側のブルーの印象が強いですけれども、腹側は鮮やかなオレンジですし……。

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 ヤマメ域にもヤマセミなどがいますし、そもそも黒いカーボンの竿が動いた程度、銀のフライリールがキラめいた程度でも警戒することがある魚を釣ろうというなら、やっぱり空中で派手に目立つラインのことは、気に留めておくべきではないかと思います。

 私自身としては、周囲に溶け込むグリーン系かアクアブルー系、グレー系が良いと考えているんですが、渓流で使うような製品では、この手の色となると選択肢が少ないんですよね……。
 ということで、私自身は渓流釣りの場合、14フィートなんて長いリーダーは使う気はなく、地味色のフライライン(遠投性能など不要なので色で選ぶ)に9フィート仕様のリーダー。そして先のテーパーがない部分を50〜60cmほど切って、先にハリス(ティペット)を90cm〜120cmくらいつないで使います。川が小さいときや周囲に木が茂っている場所は、7.5フィート仕様のものを使うこともあります。
 長いリーダーを使うくらいならラインの色を地味に。これはもう、日本の狭い渓流なら必須だと思うのですが、さて。

●魚は空中をどう見ている?

 とすると「そもそも魚は水中ではなく、空中をどの程度意識しているのか?」ということになるかと思います。空中は天敵ばかりではありません。餌の虫も飛んできます。気の早い?短い?魚は空中キャッチなんてことをやりますし、待ち構えていて着水と同時に飛び出すこともあります。

 またもオイカワ釣りですが、ある日、投げるたびに毛鈎が着水する場所の十数cm先で、着水のタイミングで水しぶきを上げる魚がいました。不思議に思って観察していると、毛鈎が飛んで行って、最後に糸に引かれて少し手前に落ちると、その飛んでいく延長線上で、タイミングを取って飛びかかっていたことがわかったのです。

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 このときはまっすぐ打ち込まず、水面から50cm以上高いところで一度糸を全て伸び切らせて止め、そこからフワッと落としたら、やはり着水と同時に一発で出てきました。
 また#28というサイズの極小(全長3mm以下)の毛鈎を、着水前に空中でキャッチしたオイカワも何度も見ました。本当によく見ているのです。

 ブラックバスの場合では、はるか昔の千葉県某ダムでの話ですが、非常に攻め続けられていたのか、いるけれど今ひとつ食ってこない、というときに、日本式毛鈎釣り(=テンカラ釣り)の打ち返し攻めパターンのごとく、打ち込んで1秒でピックアップ、さらに打ち返して1秒、という釣りをしたことがあります。
 毛鈎をそれ以上見せたら「餌ではない」と見破ってしまうのですね。そんな釣り方でも、ちゃんと釣れます。明らかに打ち返し=何度も飛んで来る餌というのをわかって、次に飛んでくるのを見ていたのです。

●フィッシュ・ウインドウというのぞき窓

 さて、水中から空中を見上げるとどうなるのか?を考えるうえで、外せないことがあります。
 光の屈折、というのはあまり理科に詳しくなくとも聞いたことがあるでしょう。「ガラスと空気」の屈折率の差を使って光を曲げるのがレンズやプリズムですね。これは「空気と水」の間でも、起きます。

 この屈折の角度、水面に垂直なら屈折しません。では最大でどのくらいまでは曲がるものなのか?というのを臨界角というのですが、これが48.6度です。この角度で水中から出た光が、論理上は水面に沿って曲がるということを意味します。これ以上の角度で水中から発せられた光は、水面で反射してしまいます。
 つまり、魚の頭上には(鏡のような真っ平らな水面の場合)ぽっかり丸く、空中〜地上(岸辺)/水面上の風景が、それこそ魚眼レンズで撮った写真のように見え、その外側は水底の様子が映っているということなのです。この窓をフィッシュ・ウインドウと言います。

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 とはいえ、実際は水面での反射の問題もありますし、波もありますから、そんなにクッキリ・ハッキリとした境界線はできないのですが、図に描いた基本的な理論と、実際にどのくらいが見えて、どのくらい見えてないのかは理解しておいた方がいろいろと役立ちます。

 例えば、竿やフライラインに魚が怯えるとき。これは姿勢を低くして水面スレスレの死角からサイドキャストで狙おう。これなら見えにくい! となるわけです。足場が高すぎて魚から丸見えなら、岩陰から攻めるか、姿勢を低くしようということにもなります。

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 橋や高い護岸など、直上の高いところは警戒していない(遠すぎて見えていない?)こともありますが、10m近い直上からは、特殊な釣り方以外釣りにくいですよね……釣っても面白くないか、取り込めないか、ですし。
 観察には最適なので、そういう場所を見つけたら、ぜひ定点観測場所にしてください。学べるものがいっぱいあるはずです。

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 あと光の屈折で知っておきたいことは下の図です。見えている魚と、実際にいる魚の位置がずれてしまうヤツですね。トロ場や淵の底にいる、はっきり見える魚相手では発生しがちなので、奥に、浅くズレて見えることは、頭の片隅にでも置いといてください。

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 さて……。釣り用の迷彩色のウエア、ありますね。大げさ、カッコだけという人もいますが、透明度が高く、釣り座がフィッシュ・ウインドウにバッチリ入るような釣り場では、それなりに効果があるんじゃないかな? という印象を持っています。
 少なくとも、迷彩までは必要なくとも、やっぱり不自然で派手なカラー、原色の服や帽子は避けておいた方がいいのでは、と考えざるをえません。

 で、前から思ってるんですけど、釣りで使うボートやカヌーの底、つまり水中に入って丸見えになってしまう部分を、湖底から波立つ水面を見たような、カモフラージュにしたら、どうなるんでしょうね。シルバー、ライトグレー、スカイブルー、グリーン、ブラック……魚に警戒されにくい、かもしれません。あとは流木のような木目調といったものも、いけるんじゃないでしょうか?(笑)

(了)

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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佐久間 功
フライフィッシング、および海川の小物釣り入門の実用記事を書いています。気に入っていただけたらサポートしてくださると励みになります。 (モバイル決済不可/note社経由したくない等の方はお問い合わせを。ギフト券などもご相談ください) もちろん出版企画は大歓迎します。