魚を見つけるのにコツはあるのか?
何人かで釣りに行っていると、異常なまでに魚を見つけるのが上手い人と、決して上手ではない人が明確に分かれます。偏光サングラスなんていう、水面のギラギラした反射光をカットしてくれる便利なものもありますが、見つける人はサングラス無しでも次々と見つけます。これはどのへんに差があるのでしょうか? 今回はそのあたりについて……。
●魚の居着きやすいところを注視する
まず、魚を見つける能力の高い人というのは、多くの場合、魚が居着く場所の把握能力が高く、そこを中心に見ているので、川全体を漫然と見ている人よりも見つけやすい、という印象があります。以前解説したように、魚が餌を摂るためにポジションを取る場所というのは、だいたい決まっているのです。
そこを視野の中心にして、じっくりと見てみましょう。下図の左と中央のような場所ですね。ふたつ以上の流れが合流しているところは、ただ波立っているだけではなく、一定の間隔で波立ったり、湧き上がる流れで水面が真っ平らになったり、渦が出来たり、幾つかのパターンを繰り返しているはずです。
もしその場所で、水面近くに魚がいれば、水面の餌を食べるためにしぶきや波紋を上げない程度でも、流れが生み出した揺らぎに異なる波が混じったり、鏡のように波が消え、水中が見えるようになった一瞬に魚影が見えたりする、というわけです。
むしろ意外に難しいのが図の右=渕尻の浅場のような波のほとんど立っていないところです。完全に見えているはずなのですが、ここで水中の餌をメインに食べているような魚は、水底の小砂利と見事な保護色になってしまっていて、ウッカリ脅かしてしまい、上流に逃げてその淵全ての魚を警戒させてしまうようなことがあります(後述します)。
まずは離れたところから2、3投して様子を見るのが定石ですが、もし、太陽が上がってきているなら、魚の影を探してみましょう。魚本体は保護色でも、水底に映る影を頼りに見ることができます。面白いことに、一度その本体が見つかると目が慣れて、それまでは見えなかった同様な魚たちが次々と見つかったりします。
●魚と他のものを見分ける
続いて「魚なのか、石なのか、枯葉や枯れ枝なのか、藻のようなものか」の判別方法です。魚は上流を向いて定位しますので、区別できるはずなのですが、実際の自然の中では案外難しいものです。
まずは時間をかけて見てみましょう。上流〜下流方向に縦になった石は不自然なほど動きませんが、流れの都合で揺らめいたりするので、形によってはかなり魚っぽく見えます。その魚影?石?だけを注視せず、周囲の状況と比べてみましょう。一点だけを見ていると惑わされますが、周囲の岩や草木と対比して、位置が全く動いていないことがわかれば魚ではありません。
枯葉や小枝の場合は流れの状況で、流れたり、水面上からは見えない底の渦でとどまったりしますからかなり魚っぽいものですが、絶対に上流に戻ることはないので判別できます。
困るのが部分的に水底に固定された埋れ木の枝や藻の類。流れに合わせて魚が泳いでいるように揺らめいたりするのです。水中を流れる餌を食べたときにヒラ打ちして銀色の体側が見えたり、餌を追って動いてくれれば、魚だと断定できるのですが、それも絶対ではなく……。なにしろ、カワセミが揺らめく藻が点在しているのを魚の群れと思ったのか、じっと見ていたことがあるくらいです。
●魚の種類を判別する
さて。魚が見つかった場合、次に考えるのが「その魚の種類は何か?」ではないでしょうか。まず、略図から見ていただきましょう。体色の違いは目安と考えてください。
○イワナ類
イワナの仲間(エゾイワナ、オショロコマ、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ)の特徴は白い斑点……と思われがちですが、模様がこまかいタイプはイマイチわかりにくいものです。しかし、それよりもっとはっきりわかるのは、胸びれ(と腹びれ、尻びれ)の前縁部が白いことです。体色に関しては緑がかった茶(オリーブブラウン)から茶〜こげ茶まで、地域ごとに多くのバリエーションがあります。
なお、ニッコウイワナ系の養殖個体には、鰓蓋が短い奇形が形質として定着してしまったものがあり、各地で放流されています。水面上から泳いでいるのを見ても、中の赤い鰓がチラチラ見えますのですぐわかります(これを見ると少し悲しくなったり……)。
また奥日光湯川など生息場所は限られますが、カワマス(ブルックトラウト)もイワナの仲間なので、ひれの前縁部が白い特徴があります。しかも、背中の白点が虫食い状につながっていますので、模様が確認できる状態ならイワナとの判別は容易です。……と言いたいところですが、各地の解禁釣り大会などで放流される大型イワナは、養殖/飼育がしやすく成長の早いカワマスとの交雑魚の場合があり、これもカワマスほどではありませんが虫食い紋が存在しています。
○ヤマメ/アマゴ
ヤマメ、そしてアマゴは体側の幼魚紋(パーマーク)と黒点でイワナと区別が可能です。しかし、釣り上げてみると青灰色みの強い個体でも、なぜか上から見ると茶褐色に見え、さらにパーマークと黒点で、上から見た場合は完璧なまでのカモフラージュになっています(下図参照)。うっかり接近しすぎて足元から魚がダッシュ! 淵全体が沈黙……というのは、こういうことで起きてしまうのですね。
ヤマメ/アマゴも、イワナほど明確ではありませんが、各地にそれぞれの形質をもった地域固有のグループがあり、模様やベースとなる背中の色、体側のオレンジ色などかなりの差異があります。一方で養殖個体は黒点が多く、幼魚紋(パーマーク)も数が多い、2段になるなど乱れている、背〜腹方向に細長いなどの特徴があります。しかし水面上から見下ろした場合、天然魚と養殖/放流魚との差異を確認するのは難しいでしょう。
○ニジマス(レインボートラウト)
在来の魚たちのことを考えれば決していいことではないのですが、漁業協同組合の手によりニジマスが放流されている川もありますね(北海道など野生化して自然繁殖している場所もあります)。
多くの河川湖沼で見かけるニジマスは、幼魚紋が消えたくらいの大きさ以上の成魚放流でしょう。管理釣り場にいるものや、放流されたばかりの個体の多くは黒っぽく見えます。これは川の中層異常にいる場合、かなり見つけやすいものです。
18cmくらいまでのニジマスにはヤマメのような幼魚紋=パーマークが残り(小型のものほどはっきり出ています)、区別がつきにくいものがいます。ただし、黒点の数が断然に多く、体色もヤマメに比べて全体的に黒〜ダークグリーンっぽいので判別が可能です。
また、環境を整えた養殖場や、河川湖沼でそこそこの期間生育してニジマス本来の色が出てきたものは、各色が鮮やかになり、背中のグリーンやピンク色の帯、ベースとなる銀色、黒点のそれぞれがはっきりしてきます。まさにレインボーの名の通りですが、水の色によってはかなり目を凝らさないと見えないことが少なくありません。淵が淀んで緑色になるような水系では、底近くにいるこの手のニジマスは非常に見つけにくいものです。
なお、他のマス類に関しては生息地が限られる(北海道のブラウントラクト拡大はすさまじいと耳にしますが)ため、割愛します。
追記:同じ環境下でニジマスとヤマメの比較映像が撮れましたので(10秒ほどですが)ご覧ください。
○コイ科の魚たち
続いて、コイ科の魚達についても少し触れておきましょう。大きな川、ダム湖の流れ込みに近い部分での釣りでウグイが混じるのはある程度仕方のないところですが、アブラハヤは思いのほか上流(ヤマメ/アマゴ域上流部の沢)までいますので注意が必要となります。
はじめからコイ科の魚が混生していることがわかっているところでは、流心や小滝に近い、流れの強い部分を釣ることで、マス類を狙って釣ることができます。
しかし混生の状況がわからない全く初めての川では、川まで遠い道路から魚影を見つけ、一生懸命に崖のような踏み跡を下ってみたらアブラハヤだった! みたいなウッカリがっかり事案もあります。なので、これを避けるため、私自身は車に双眼鏡を積んでいます。その昔、何度やらかしたことか……。
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海や湖でも、異常なまでに魚を見つけるのが上手な人がいます。多くの場合、非常に注意力が高く、ちょっとした潮流、湖流による水面の変化(波立ったり、穏やかだったり、なんとなく盛り上がって見えたり)や、水底の石、障害物に対する違和感をとらえるのが上手な人です。
が、説明の難しい感覚的なものなので、今回はある程度論理的に説明の可能な、渓流釣りに関する話のみで締めさせていただきます。(了)
フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3