魚はどこにいるか
雑談の二回目は魚のいる場所、いわゆる「ポイント」についてです。これはわかりにくいので、図をつけますが、うまく伝われば幸いです。
●渓流の場合
もう渓流のことに関しては、餌釣りの本ですが、伊藤稔さんの「山女魚遊学」あたりを読んでください…みたいなところ、あります。
よく、フライフィッシングの教本に書かれている「こんなところにいる」「ここがポイントだから狙いなさい」といった、岩の陰や障害物の周囲などは、餌を食う場所ではなく、アプローチの下手な観察者の姿を察知して逃げ込んだ場所なので、そんなところで餌を食ってくることは、ないと言っていいでしょう。
伊藤さんの経験と分析、さらに養魚場などでの実験によれば、季節変動はありますが、基本的にヤマメが好んで定位する流速は30cm/秒、イワナはもう少し遅い場所。これ、計ってみると意外に遅いです。もちろん、水面と水底では速度が違いますが、ちょっと驚きます。水面を流れる毛鈎を見ながら、3秒ほど数えてみればいいのです。流れの強い、流心ど真ん中にはいない可能性が高いと考えていいでしょう(もちろん岩陰などに、そういう遅い流れが発生する場所はありますが)。
また、普段のヤマメは底近くにいることが多いのですけれども、アマゴはそれよりやや浮いている傾向があるようです(ただし水面の餌を狙っているときは別です。両者中層より上、流速もさらに少々遅いところが多いようです)。
TVで釣り番組を見ていると、普段(餌釣りで)ヤマメを釣っている人とアマゴを釣っている人、ポイントへのアプローチから釣りのスタイルまで、微妙に違うんですよね。おそらくアマゴのやや浮いていることと、若干(昔から言われるように)警戒心が薄いことが影響しているのではないかな?と思うのですが、まぁそれはただの推論です。
それはさておき、魚たちは伊藤理論通りに2つの流れがぶつかる、あるいは広いところから絞られるところ、つまり効率よく餌がとれるところにいます。障害物の影とかではありません。これは橋の上などからヤマメを見つけたら、じっと観察しているとわかります(意外に真上からの視線は警戒しないようなので、観察のチャンスは結構あります)。
下の図で主要4パターンを解説しました。Yパターン、ICパターンの名付け親は前出の伊藤さんですが、変形例、応用例は多くありますので、右の2パターンも覚えていると良いと思います。
ただ、ヤマメやアマゴ(あとニジマスなども)は、定位置周辺の一定のエリアを自分の位置と決めて泳いでいますが、イワナはそれ以上にフラフラと動き回る傾向があります。管理釣り場でも、想定外の方向から猛然とぶっ飛んできて、細い糸を切っていってしまうのはたいていイワナです。
話戻って、こういう餌をとるのに適した諸条件+いざ鳥などが来たときに逃げ込める物陰=大岩や草むら、倒木、護岸コンクリートの隙間などが近くにあるところ、それが川でのポイントとなっています。ただ草むらや張り出した木の枝の場合は、そこから落ちてくる虫を直下で待っているという例もあります。
もっとも、驚くような浅いところにいることもあるのが渓流魚。小砂利の浅瀬で水面が波立っていると、真上から見たヤマメやイワナは完全にカモフラージュされます。そして手前の魚を驚かして遁走させてしまえば、奥にいる大きな魚も警戒してしまう可能性が高いものです。川岸に立つときは、慎重のうえにも慎重を期していきましょう。
特に川に降りる踏み跡が付いているところの正面からやや下。みんなが追いちらしているのですが、川岸に立つ前に少し後ろから釣ると、ポンと出てくることがあります。
●湖の場合
個人的に、昨今流行りのスペイキャストとか、自分周囲の水面をバシャバシャ騒がせる釣りが大嫌いなのですが、それは「静かにしていれば、魚は結構岸沿いまで寄ってくる」のを経験しているからです。
沖に回遊路とか地形の変化など明瞭なポイントがあるならともかく、岸沿いの浅い場所は安定して水生昆虫やエビ類、小型のハゼ(ヨシノボリ)などの餌がありますし、ワカサギやウグイ、オイカワなどの小魚を追い詰めることもできます。また浅いと言っても均一ではありません。大型の魚が身を寄せる岩や倒木も急傾斜の陸地から落ちて入り込んでいたりしますし、桟橋などの人工的な構造物も(放棄された残骸も含む)多々あります。そんなことで、静かにしていれば足元まで寄ってくるマス類も少なくないのです。
さらに、ですが……昔はよく、中禅寺湖のルアー釣りの人から「ボートで沖から釣っていると、岸から水に深く入っているフライフィッシャーマンの間でブラウンやニジマスが釣れる」なんて話を聞かされましたし、川の話になりますけど、奥多摩本流でも「立ち込んでじっと動かないでいるフライの人の下流側、それも足元で尺ヤマメが釣れる」と餌釣りの人に笑われることがあります。
実際に、私自身が芦ノ湖で何度も大きい魚を釣ったり、目撃しているのは、ボート屋の桟橋の内側だったりします。騒がしくなければ、50cm以上の魚が、そんなところに入ってくるのです。早朝にボートが出払った、そのあとに静かになった桟橋の内側なので、知っている人がいなくても当然ですけれど。
ものすごく雑に言い切ってしまいますが「遠くの方、沖の方が釣れそうな気がする」というのは多くの場合、幻想だと言っていいのではないでしょうか。大きな川でも、向こう岸の方が釣れそうな気がするものですし……。
芦ノ湖の釣りではいろいろ学ぶことがあったのですが、まず見るのは風向きです。向かい風は投げにくいのですが、風下の岸の方が良い傾向があるようなのです。虫は吹き寄せられるし、産卵後に弱ったワカサギなども同様に流されてきます。餌が集まり、それを追った魚が集まったり元気になるということですね。やはり鍵は岸沿いなのです。
さらにこの風の問題は、バシャバシャと波が立つので酸素量も多い、といった理由もあるのではないかと思います。この手の話で面白かった経験は、遊覧船桟橋横です。なんと、その船のエンジン音やスクリュー音に慣れたニジマスは、朝、エンジンを掛けてスクリューを回した瞬間、水が動いて、群れ丸ごとが一気に活性化。餌、ルアー、フライを問わず、その近くにある溜まり場で、突然バタバタと釣れ始めたことです。もちろん岸からゆうゆう届く範囲です。
また、対象魚はブラックバスでしたが、以前、初夏の河口湖で体験した話も加えておきましょう。おそらく夜間にエビでも食べに来て居座っていたのでしょうか? 早朝、小砂利の浜のごく浅いところ……ギリギリ魚の背中が出ないくらいの深さに、約2m間隔で30cm級のバスが並んでいたのです。
これを釣るためにどうしたか?。まずはしゃがんでにじり寄り、波打ち際から数m離れたところからフライライン部分は着水させず、透明ナイロンのリーダーと毛鈎だけを湖面に……。まず1尾。続いて横方向に、やはりフライライン部分は岸の上に乗せた状態でもう一投。2尾目。湖岸線に沿ってしゃがんだまま2m横移動。3尾目。というような入れ食いモードでした。
渓流や大きめの川ですと、こういう釣りは普通にあります。しゃがんだ状態での「にじり寄り」も日常的と言っていいでしょう。しかし、湖だからって、油断しちゃいけません。岸沿いの浅いところに魚が来ているときもあるのです。この入れ食いだって、いきなり岸際に立っていたら、全部の魚が沖にダッシュして終わりだったかもしれないのです。
続けてバスの話2本目で恐縮ですが、もう20年以上前でしょうか、ある溜池でのブラックバスでの経験です。
11月の急に冷え込んだとき、北風の吹き付ける堰堤で、興味深い現象を見ました。表面の冷やされた水が風に吹かれて堰堤に当たり、下へ潜っていたのでしょう、そこに囲まれたまだ暖かい水の中に魚が取り残されていたのです。こうなると、なかなか表面の冷たい水を突き破って水面までは出てきません。本来のすみかであったはずの障害物にも寄りつけません。釣れるのはやや沖の方(図の鋭角になっている魚がいっぱいいる部分)に沈めた毛鈎ばかりでした……。堰堤のような急深な構造+温度差があると、風下が有利とは言っても、こんな条件もあるのです。
なお風上側はというと、底近くの水が巻き上げられているはずで、水質や底質によっては、風下側より良くないことになっていたのではと思います。
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そうそう、湖のポイントで重要なスポットのお話を忘れるところでした。そのスポットとは「枯れた川の沖」です。流れ込みがほぼ渇水状態、あるいはまったく水がなく干からびていても、その沖には湧き水が出ていることが多いのです。寒い時でも水温が高かったりして、魚の溜まり場になっていることが多い場所です。
底の傾斜角度がガクッと変わるような地形変化や、岩、沈木といった障害物だけでなく、こういったポイントを見つけるのも、湖の釣りのコツと言えるでしょう。
細かい話をしていてはきりがありません。ポイントの話はここで一旦打ち止めとしましょう。(了)
フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3