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クビコンと私

〈自作「乳飲み子奇譚」について〉

私が生首に魅せられたのは小学校高学年の頃だった。新聞の美術作品紹介の連載で、モローの「オルフェウス」が取り上げられていたのだ。竪琴と一体化したオルフェウスの首も、それを抱く装飾的な衣装を纏ったトラキアの娘とその慈愛に満ちた表情も、何もかもが、見たこともないような麗しい夢の現出に他ならなかった。私はその絵を切り抜いて、勉強机の透明ビニールマットに挟み、大学進学で家を出るまでそのままにしていた。
それからも、サロメなど生首がモチーフになる作品にはひとかたならぬ心を寄せてきた。
だから「生首」がテーマの小説を募集しますとSNSで見かけた時、これは私が応募せずにどうする!と意気込んだ。
これまでも生首を扱った小説を書いたことはあるし、使ってみたい設定もいくつかネタ帳にあったのでいくらでも書けるだろうと高をくくっていたが、いざ書き始めて困った。
生首がテーマとあらかじめ決まっていると、「実は生首でした」をオチとして使う構成が成り立ちにくい。いわば最初からネタバレしてる状態で生首をどう扱うか、これまでとは違う構成を探らねばならなかった。また規定文字数も多いとはいえないので、壮大なテーマは扱えない。
まずは他の応募者はどんな生首を出してくるかと予想し、少なさそうな赤ん坊の生首をモチーフに定めた。それなら自分の嗜虐趣味も多少は入れられそうで書く愉しみも見いだせる。どういうストーリーにするかは、以前パート勤めをしていた時に聞いた社員さんの産休明けの搾乳の話をヒントとした。彼女は3人も子どもを授かったものの不妊に悩む小姑との仲が気まずいらしく、子どもが嫌いでいらないから持たない選択をした私からも妬まれるのではないかと警戒心を持っていたことを思いだし、作中の登場人物2人のどんよりした関係性や心情を描くよう努めた。
タイトルは単純に、いつか奇譚という言葉を使ってみたいという憧れでつけた。

〈『KUBISM』『首供養』掲載作品を読んで〉

全作品を同じ熱量で感想を述べられないのが申し訳ないので総括にてご容赦を。
まず何よりも、発想が自由で羨ましい。この枚数に入れらるのは…とか縛られず、自分が面白いと思ったことを形にしている。ジャンルが多様なのはその結果だと思った。
文章はどなたも整っていて、読みにくいと感じた作品はなかった。特に情景や対象物の描写は、それぞれの特徴がありながらも視覚的で過不足なく描かれていた。そのため「生首」という現代では実物を目にする機会がないモチーフを扱っていても、ことさらリアリティに欠ける印象を感じた作品もなかった。
意外だったのは、女性を“ミューズ”のように描いている作品がいくつもあったこと。これは枚数の都合上かもしれないが。
また、これは自戒をこめてだが、地の文章に比べて類型的な会話を書いてしまいがちなので、会話もがんばって書かないといけないなと思った。読んでも自分で書いていても、方言のほうが会話のリズムを出しやすいと再認識した。

〈最後に…〉
私の偏愛する生首というニッチなテーマでコンテストを開催してくださったこと、感謝してもしきれないです。こんなに生首が集まる機会があるなんて夢にも思いませんでした。コンテストのあり方としても完全匿名だったので、信頼して応募できました。
結果として優秀賞に選んで頂け、自分の生首愛により自信を深めることができました。
何度も何度もお礼申し上げたいです。本当にありがとうございました。

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