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【WSH】コービン復活の可能性を探る

パトリック・コービンが歴史的スランプに苦しんでいます。現地6日の試合では1回を持たずに6失点で降板。両リーグ最多の16敗目を喫しました。これで防御率は驚異の7.02、平均との乖離を示すERA+は56(100が平均)となり、これは1915年のルーブ・ブレスラーと並ぶ100年ぶりの不名誉な成績のようです。

現在33歳のコービンは、2019年にナショナルズと6年総額$140Mの大型契約を結び、同年にはチームの世界一に大きく貢献しました。しかしその後は大きく成績を落としており、しかも来年・再来年で計$60Mの契約が残っており、”不良債権”と言われる始末です。コービンに復活の余地はあるのか。その可能性を探っていきたいと思います。

コービン不調の要因は

サイヤング級の成績を残した18、19年からは落ちるとはいえ、今季のK/9=8.3、BB/9=3.3はそれほど悪い数字とは言えず、また速球の平均球速92.3マイルは全盛期(18年=90.8、19年=91.8)よりも上昇しています。

にもかかわらず、なぜこれほどまでに酷い成績になっているのか。その最たる要因はチェイス率とチェイスコンタクト率の悪化にあると私は考えます。(※チェイス率というのはボール球を振らせる率、チェイスコンタクト率はボール球を当てられる率を指します。)

コービンの投球の生命線はキレのあるスライダーで空振りを奪うことにあります。下図はBaseball Savantから引用したものです。図1のパーセンタイルのチェイス率の欄に注目すると、キャリアを通じて90以上高水準であることがわかります。これはコービンが効果的にボール球を振らせていたことを意味します。不調であった20年でも”90”、21年も”87”を記録していたにもかかわらず、今季は”42”と大幅に悪化しています。図2のチェイスコンタクト率を見ても19年には46.1%であったものが、今季は59.1%とこれも平均以下に落ち込んでいます。つまり、今季のコービンはボール球を振ってもらえない&ボール球で空振りが取れなくなっているのです。

図1 パーセンタイルランキング
図2 プレートディシプリン

チェイス率はなぜ悪化したのか。

それではなぜコービンのチェイス率は悪化したのか。原因を一つに特定することはできませんが、考えられる要因を挙げていきたいと思います。

①スライダーの質低下

まず一つ目は「スライダーの質低下」です。図3の赤く囲った部分に注目してください。

図3 ピッチトラッキング

全盛期の18、19年に2300後半だったスライダーのスピンレートは、200近く落ち込んでおり、空振り率も下降しています。投球の生命線であるスライダーの質が低下したことはコービンにとって致命的でしょう。ではスライダーの質を改善するにはどうすればよいでしょうか。その突破口はスライダーの球速を上げることにあります。図4を見てください。

図4 ピッチトラッキング(月別)

スライダーの球速と空振り率に注目すると、スライダーの平均球速が速い月ほど空振り率が高いです。これは、コービンにとって、しっかりと腕を振ってリリース・球速・軌道を速球に近づけることが空振りを誘う上で重要なことを示唆します。直接的なデータを見つけることはできませんでしたが、私の体感としてもコービンは83-85マイルのスライダーが1番空振りを取れている印象があります。

どのシーズンも後半につれて球速が上昇する傾向がありますが、全盛期である19年の後半は81.8~82.4マイル、空振り率は50%以上をマークしていました。そして今季は6月、7月と平均で82マイルを超えており、空振り率も40%以上とスライダーの質は改善傾向にあると言えそうです。
では、それなのになぜ打たれ続けているのか。第2の理由を挙げます。

②コマンドの不調

スライダーの質は改善傾向にあるのに、なぜ打たれ続けているのか。第2の理由はコマンドの不調です。下の図5を見てください。19年と22年の投球分布を見比べると、22年は速球&スライダーいずれもコマンドが甘くなっていることがわかります。

図5 19年と22年の投球分布図

また下の図6を見るとゾーンの甘い部分である”Heart”への投球割合が19年の21%から27%に増え、”Chase”や”Waste”といったボール球の投球割合が減っていることがわかります。本来コービンの真骨頂はボール球を振らせることにありますが、コマンドの不調のせいでゾーンの甘い部分に投球が集まっている可能性があります。

図6 Statcast スイングテイク 

また、コービンの初球ストライク率69.4%は両リーグ全体で3位という高水準です。確かにストライク先行で有利なカウントを作ることは打者を抑える上で定石です。しかし、質の高くないボールをゾーンの甘いコースに集めすぎていては被安打を許すだけです。コービンの被打率.330はもちろんダントツで両リーグワーストの数字です。

私は与四球が増えたとしても、際どいコースへの投球割合を増やす方が良いと考えます。”Chase”ゾーンのスイング率は19年の34%から23%に落ちており、際どいコースを攻めても見極められて与四球が増えるだけになるかもしれません。しかし、WHIP1.82の投手が今さら与四球を気にしても仕方ないと思います。甘いコースに投げて長打を打たれるくらいなら四球で歩かせた方がマシです。速球とスライダーをゾーンの低めに徹底して集めることが復活の鍵になると思います。

総括:コービン復活に向けて

以上の話を総括すると、コービン復活の鍵は
①スライダーの質を維持すること。
②与四球が増えてでもゾーンの低めいっぱいを突くこと

の二つだと考えます。

具体的に言えば生命線であるスライダーを平均82マイル前後の強度で維持し、しっかりと低めいっぱい~ボールゾーンに投げ切ること。
また、速球については真ん中付近でカウントを稼ぐのではなく、2019年の時のように右打者の外角低めに集めることです。この際、ボールが先行し与四球が増える可能性があっても、現状を脱却するにはやむを得ないと割り切ること。

もちろん、私のような素人が考えることはナショナルズ首脳陣も本人も分かり切っているでしょうし、仮に採用しても簡単に上手くいくとは限らないでしょう。しかし、このままでは「100年に1度の最悪の投手」という汚名を着せられたままです。ここ3登板で2度、1回持たずに降板。現在6連敗中と苦しい投球が続いていますが、再び2019年のポストシーズンで見せたような快投をファンとしては期待しています。シーズン残り2か月、コービン復活の可能性はあるのでしょうか…?

長文をお読みになっていただき、ありがとうございました。最後に皆様のお時間を3秒だけ分けてください!よろしければ「スキ💓」をいただけると、記事作成の励みになります。

Photo:https://flic.kr/p/2jt9Sje



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