トリックを思いついたらシナリオの8割完成したと言っても過言ではない-さくべえのマダミス呟き-
トリックを思いついたら、シナリオの8割完成したと言っても過言ではない。
あんまりそういう話は聞かないのだけれど、私は(自分が作るときにおいて)トリックの完成度がシナリオ全体の完成度を大きく左右すると思っている。
それは「マーダーミステリーはミステリーと名乗る以上はミステリー要素も面白くしないとね」なんていう話ではなくて、本当に単純にトリックの面白さ(事件の面白さ)でシナリオの面白さも大きく左右されると考えているのだ。
極端な例を出すと…
①特にトリックはなく、空いた時間に刺殺しただけの犯人
②電車の奇跡的な乗り換えを利用してアリバイを作った犯人
の2パターンがあったとする。
(電車ってマダミスでは見ない気はするけども、まあ例え話としてね)
①の場合、アリバイ精査でだいたい犯人が絞れてしまう。
犯人以外にも犯行時間にアリバイのない人物を作ることは可能だが、最終的に犯人を絞る導線を作るためには、凶器を手に入れることはできないとか、あるいは動機がないとか、そういう消去法的要素になってくる。
端的に言えば、推理に沈みこんでいく深度が薄い。
サスペンス映画に例えれば、最初に出揃った情報元だけに聞き込みして解き明かすようなものである。
(面白いサスペンスは聞き込みすることで新たな情報が得られて、さらに聞き込みし、そこで思わぬ事件があり…と展開していく)
一方、②の場合は、①のアリバイ精査だけでなく、電車の時刻表や駅の乗換方法など、そのトリックを思いつくために必要な情報が増える。
そうした情報は”点”として存在するわけではなく、星座のように”点”と”点”を繋げていくことにより、ひとつの形を生み出していく。
つまり面白いサスペンスもののように、点Aについては明らかになり、次は点Bが必要だというふうに連結したり、あるいは思わぬところから点Cが振ってきて視界が開けたりするのだ。
①とは違い、ひとつの要素が大きな星座の一部となっていくので、その星の位置を間違えられぬように、細心の注意を払って設置していく必要がある。
その細心の注意、細かいところまで目をやる行為にこそ、神が宿ると私は思う。
面白いトリックであればあるほど、推理に必要な情報が増えたり、情報の提示に工夫が求められたりする。
そのトリックを上手く隠し、あるいは探偵役が気づける導線を作ったりしていく過程で、ハンドアウト情報やカード情報は洗練され面白くなっていく。
“いかに面白いトリック(事件)を思いつくか”によって、”そのシナリオのハンドアウト情報やカード情報が生き生きと面白くなるか”も大きく左右される。
したがって、たとえ推理重視の作品ではなくても、ある程度はトリック(事件)をしっかりと考えることが大事だと私は思う。
余談だが、エモーショナルな要素と推理重視傾向は対立しない。
なぜなら、「ドラマチックで心動かされる事件(真相)」というのは存在するからである。
トリックではなく、事件となるが、ひとつ例え話を挟もう。
…たとえば、少女が真珠の髪飾りを落としてしまった。
何故か、ある男がその髪飾りを持っている。
少女はどこで落としてしまったかはわからないが、全員の証言(少女が髪飾りを付けていたたところを見た、あるいはあのときにはもう付けていなかった…など)をまとめてみると、どうやら被害者が死んでいた部屋で落としたらしいことがわかる。
しかし、その部屋に落ちていたのではなく、男が髪飾りを持っていたのだ。
つまり、その男は犯行現場に立ち入ったということになる。
アリバイ精査したところ、男が部屋に立ち入るタイミングがあるとすれば、まさに死亡時刻だけである。
したがって、男が犯人だと判明する。
でもなぜ男はそんなことをしたのか?
実は男は娘の生き別れの父親だったのである。
あまりにも完璧な殺人を犯した後、父親はそこに娘の持ち物が落ちているのを見て、それが決定的な証拠になるとは理解しながら、娘が冤罪で捕まるを恐れるばかりに拾うしかなかったのだ。
――なんて話。
単純にアリバイ精査して犯人を探して...というよりも、「少女の髪飾りはどこで失われたのか」という事件に全く関係のない点から話が広がっていくのが面白い。
こんな単純な話でも、推理導線を「アリバイ精査」や「消去法」にするだけでなく、着眼点を変えて推理導線に物語性をのせるだけでグッと深みが増す。
むしろエモーショナル要素の強い作品の方が事件との絡め方で何倍も美味しくなるのでオススメだ。
というか殺人工作のあれやこれやとエモーショナルな話が絡みあいの相性がいいからこそ、世の中にはミステリーとかサスペンスとかが大量に生まれているのだよね。
そういうわけで、もしよかったら推理要素もがんばって考えてほしい。
トリックや推理導線を考えるのはめちゃくちゃ骨が折れる、めちゃくちゃ挫折しそうになる。だがその山を乗り越えたものにだけしか味わえない喜びもある。
卓展開やエモーショナルなRPはPLに依存するが、事件の面白さ/トリックの奥深さはあまり軸がぶれない。
どの卓でもほとんど平等に舌の上に乗ってくれる。
それは制作者の心強い味方になってくれると思います。
健闘を祈ります。
追記:
こういう話を書くと
「じゃあ、さくべえはマダミスを面白くするためだけにミステリー部分を考えているのか?」
と思われそうですが...
まあまったくそんなことはなく、私はめちゃくちゃミステリーが好きです。
めちゃくちゃミステリーが好きなので、自分の作品も何か面白いミステリー要素を入れられたらいいなと思って、トリックや事件を考えてます。
だから、トリックを思いついたら8割完成、というのは、単純に私がミステリー要素大好きすぎるゆえの思い込みなのかもしれない。
まあ、でもね、ミステリー要素がつまらない作品か、ミステリー要素も面白い作品かだったら、後者の方がだんぜん良いのだから、けっきょくミステリー要素を面白くしたら得しかないのですよ。
マーダーミステリーを作るのであれば。