物理学徒は飛び降りない
「最近の自殺って何がトレンドなんでしょう、先生?」
急にそんなことを口に出されたから、少しの間、返せないでいた。
「いや、急に物騒な。どうしたんだ」
「学生に時間は無いんですよ。思いついたことはすぐ実行に移さなくちゃならないんです」
少し自慢げに語ったあと、再び彼女は目の前の紙、いくつも図が書いてあるテスト用紙を見てはいかにもよくわからんといった表情をした。
「いや、意味わからん。文句を言ってる暇があるならさっさとやれ」
「だって、人間の頭は相当重たいんです。いくら足から綺麗に落ちたって、空中で少しバランスを崩したらすぐに頭から真っ逆さま、渦巻く翼は私たちの再会のために、そして9.8m/s・sは私の重力加速度、ですよ」
誰が女子高生の自殺トレンドを追っているというのか、いや、意外とそういう奴はいそうだなとか思いながら、
「それは一理あるな。最近はなんだろうな、薬とかなんじゃないのか」
「ブブー、正解はガスです」
…なんていうんだろう、当たっても嬉しくないが、外れるのも悔しさがある。そしてそう感じていることが悔しい。
「……少なくとも私は、百合の花が満ちた部屋で死にたいと思いますね。それ以外はセンスがない」
未だかつて「死に方」というものにセンスを感じたことがなかった自分には、あまりに遠すぎる話だと思った。
「そういや、最近流行りの感染症で、もし急にそういうことになったらどうするのか話し合うことも大事だって専門家が言ってましたよ」
何を感じ取ったのか知らないが、彼女は補足情報としてそんなことを付け足した。