第3話 出会い
美琴と悠は学校の階段を上っていた。
学校といっても小学校の階段なため、かなり歩きにくさを感じる。
しかし、美琴はそんなことは微塵も感じさせずずんずんと先へ進んでいた。
「美琴ちゃん、最近蒼空くんどう?」
「どう、というのは?」
美琴が少し戸惑った表情を見せる。まだ幅広い質問は苦手なようだ。
「うーん、変わった事とかってあったりするかな?」
「毎日元気すぎて困ります。あれが妖だと忘れてしまいそうになるくらいに。」
「そっか、今のところ特に何も無いようで良かった。」
実の所、僕は美琴という人間が苦手だ。
あまりにも人間味が無くて、纏う空気が透明すぎる。
やはり人間は分からないものに恐怖するのだろう。
それにしても...
「美琴ちゃん、緊張してないの?」
「...?はい。なぜでしょう?」
「いや、だって1人での妖討伐今日が初めてでしょ?いくら階級が『義の大義』の妖だって流石に緊張しない?」
「特に...全くの初めてという訳でもないですし。」
「そっかぁ。すごいね。」
やはり、この少女は苦手だ。
「悠さん、この先です。」
「みたいだね。」
「でも、これって...『義の大義』じゃなくて、『信の大信』の階級の気配ですよね?」
美琴との間にピリッとした空気が流れる。
本来現れるはずの妖より2階級上なのだから当たり前ではある。
政府の未来視が外れた?あのお方の未来視が外れるとは考えにくい。
偽の情報か、或いは...
「緊張はしていませんが、身が引き締まりました。」
「それは良かった。ちょっと本気出してみてよ、美琴ちゃん。」
教室のドアに手をかけると、目的のそれが影として現れていた。
影はこちらに気がつくと刺々しい見た目に変化する。
「ウニか氷か...」
「どちらでもいいです。...糸。」
美琴が糸と発した瞬間、美琴の両手から光る糸のような物が現れる。
影を取り囲むように縦横無尽に跳ね回る。
が、影の方も動きが早く、糸がかけきれない。
「...面倒臭い。冷気。」
氷の言葉と同時に今度は手から冷気が出る。
1分としないうちに室温がみるみる下がっていき、影は動きを止めた。
「...糸。」
ひと仕事を終えたからかゆったりとした動作で対象を縛りあげる。
「彼の世界の物よ。我が配下となり、僕となれ。契約の下に酒呑童子が配下美琴が命ずる。」
詠唱が終わると、先程の影の核が現れた。
「氷じゃなくて水だってよくわかったね。」
「氷は自由自在に形を操れませんから。」
「確かにそうだ。じゃあ、これは僕が預かって報告しとくよ。」
「わかりました。では、また。」
「寄り道しないで帰るんだよ。」
「アキ様みたいな事言わないでください。」
美琴はそう言うと窓からサッと飛び降り、そのまま走り去って行った。
もしかすると美琴の方も僕のことが苦手なのかもしれない。
美琴の方はそこそこ力があるし、そのまま返してしまって構わないだろう。それに、何かあればアキ様が茶々をいれる。それよりも...
「さて、予定より2階級高い階級の妖が現れましたが...先程から観ていたのは貴方ですか?」
天井の方に目を遣ると、式神のようなものがひらひらと落ちてきてそれが人の姿へと変化した。
「ありゃりゃー、バレちゃいました?」
所謂地雷系ファッションに身を包んだ可憐な女子がギャルっぽい口調で立っていた。