誕生日
私は10月2日に誕生日を迎えた。
海外で仕事をする機会が多い夫は、前日に帰国したばかり。まだまだ時差ボケと疲労が残る。
10月2日に日付が変わると、両親をはじめ親しい友人たちから「お誕生日おめでとう」のメッセージが続々と届いた。
私が生まれた日を覚えていてくれて、日付が変わるタイミングを待ってくれたことに、心から感謝した。
周りにこんなにも愛に溢れる人がいることが、嬉しかった。
夫は日付が変わる前に寝てしまった。
疲れていることは理解しているけれど、やはり寂しかった。
一番近くにいる人が、一番早く「おめでとう」と言える。そんな特権を持つ特別な人なのに、先に寝てしまうなんて。
10月2日の朝、太陽があたたかく、心地よい風が吹いて、ようやく秋を感じる気持ちのいい日だった。
夫が海外に長期で行った後の洗濯物は大量。午前中から洗濯をし、外に干し、太陽の下で風に揺れる洗濯物を見て、いつもの日常を感じた。
私は干した洗濯物が風に揺られてるところを見るのが好きだ。
誕生日だとはいえ、生活は続く。人生は日常の連続だ。
夫は朝から普段と変わらず過ごし、一ヶ月切れなかった髪を切りに美容室に出かけた。
私は自分から誕生日の話題は出さなかった。
お祝いすることへの責任を感じてほしくなかったから。
今年はタイミングが悪かったなと自分で納得し、夫が出かけている間に1人でカフェに行き、ケーキを食べた。
そんなこんなで夕方になり、帰宅。
もうすぐ誕生日のこの日が終わってしまうと思うと、なんとも言えない気持ちだった。
夜ご飯は夫が連れて行ってくれることになり、2人でよく行くおばんざい屋さんへ向かった。
お店につくと、夫の友人夫婦や仲のいい人たちが待っていて、お祝いしてくれた。
驚きと嬉しさ、そしてこの年になり大勢にお祝いされることへの恥ずかしさが交わった気持ち。照れ臭かった。
みんなで乾杯し、賑やかな雰囲気の中で食事が進む。
私は食べ物だとハンバーグが好きで、そのおばんざい屋さんの煮込みハンバーグが特に気に入っていた。
甘さの中にスパイシーさがあるソースで煮込まれた柔らかいハンバーグが格別だった。
特に注文はしていなかったが、ハンバーグが出てきた。
夫が事前に予約してくれていたようだ。
その後、みんなからプレートやプレゼントをいただいた。
夫はお店にプレゼントを預けていたようで、一番最後にぶっきらぼうに渡してくれた。
私はホッと安心した気持ちと、今日一日の寂しさが混ざり、涙が溢れそうになった。グッと堪えた。
夫の不器用な愛を感じた。
家族の為にどれだけしんどくても、体調が悪くても文句の一つも言わず働いてきてくれて、自分のことで精一杯な状況でも、私の誕生日を祝ってくれた。
相変わらず独りよがりな自分が恥ずかしくなった。
自らの人生を自らつまらないものにしていた。
言葉や行動でストレートに伝えることだけが愛ではない。
人それぞれ表現の仕方がある。
私はその人の愛に気づける人でありたいと思った。
周りの人の愛や温かい気持ちに触れた、特別な誕生日の夜。
どんな一年にしていこうか。つまらない大人、つまらない人生はもう辞めよう。