チップの税務(米国税理士: IND①)
なかなか日本人には馴染みの薄いチップ。レストランでウエイターさんに払ったり、荷物を預けるクロークに渡したり、ホテルでベッドメイクの人のために枕元に置いたりと、キャッシュレスのこの時世にあってもキャッシュを持ち歩く必要があり、面倒な文化だなぁと思うこともしばしばですが、米国民にとっては重要な収入源。しかも、きちんと所得にカウントされることになっています。懐に入ってオシマイじゃないんですね。
というわけで、今回はIRS(米国歳入庁:いわゆる国税庁)が発行しているPublication 17とPublication 531から、チップの部分を取り上げて解説したいと思います。米国税理士試験では、個人所得税のGross Incomeの項に対応しています(ただ、記載内容は少々細かいので読み物として軽く読んでください)。
ご注意:2019年度申告(2020年7月申告)用のPublicationに基づいて記載していますので、基準となる金額などは各自ご確認ください。
1.チップをもらう側がしなければならないこと
Publication 531の冒頭に、チップを受領した場合の3つの義務について記載があります。
・毎日、チップの受領について記録すること
・受領したチップの金額を雇用者に報告すること
・すべてのチップについて、確定申告時に申告すること
それぞれについて見ていきましょう。
2.毎日、チップの受領について記録すること
雇用者に対する報告は日々する必要はありませんが、チップを受領を日々記録することで、記録漏れや申告漏れを防ぐことができます。また、申告した確定申告書に対してIRSが税務調査を行う場合の収入の証跡になります。
記録方法は、記録帳(tip diary)やレストラン等で発行するクレジットカードの利用控えのコピーを取って整理するなどの方法によります。Form 4070-Aという帳票も使えます。
キャッシュでないチップ(チケット、旅行券、その他の「物」)を受領した場合は雇用者に報告する必要はないのですが、申告書に記載する必要があるので、別途記録しておきます。
チップのややこしいところですが、自分あてでないチップをもらったり、複数人でチップをシェアすることがあります。その場合は、誰あてのチップがいくらあるか、複数の従業員でまとめる(プーリング)した金額がいくらかを記録に記載します。
保管期限(時効)はRPP科目の試験に出ますので一緒に覚えておきましょう。
・基本は3年
・申告漏れの収入が申告書に記載のgross incomeから25%超となる場合、6年
・詐欺(fraudulent)の場合は無期限
・申告しなかった場合も無期限
・還付を受けたいときは税を支払った2年後または申告の3年後のいずれか遅い方
・貸倒が発生した場合の請求は7年
3.受領したチップの金額を雇用者に報告すること
雇用者は、給与とチップなどの収入を合わせて源泉徴収をする必要があるため、受領したチップの金額は雇用者に報告する義務があります。ここでいう源泉徴収の対象は、所得税(income tax)およびソーシャルセキュリティ税、メディケア税です。自分への帰属分の現金、小切手、デビットカードやクレジットカードによるチップが報告対象で、いわゆる「物」は報告対象外です。
ここでいう「自分への帰属分」は、プーリングされるチップは含まず、また他人あてのチップも含まれません。ただし、他人が預かった自分あてのチップは報告対象となります。
いずれの雇用者においても1か月のチップ受領額が$20未満となる場合は、雇用者に報告する必要はありません。
報告はForm 4070か、会社所定のチップ報告フォームを用いて報告します。
報告期限は、翌月10日(休日の場合は翌営業日)です。2020年5月分を、6月10日までに報告するイメージです。雇用関係が終了した場合は、その時に提出します。雇用者は、給与およびチップの収入をもとに源泉徴収税を計算し、Form W-2(いわゆる年末調整の帳票)に源泉徴収額が記載されます。
雇用者にチップの受領を申告しなかった場合、ソーシャルセキュリティ税およびメディケア税の50%がペナルティとして課税されます。自身が雇用者にきちんと(reasonable cause)報告したにもかかわらず、結果として所得の過少申告となってしまった場合は、自らがreasonable causeにもとづき行動していた証明ができればペナルティは課されません。
4.すべてのチップについて、確定申告時に申告すること
雇用者に対して既に申告済みのチップは源泉徴収が済んでおり、Form W-2のbox 1にチップ収入額が給与等とともに合算・記載されています。また、必要な所得税やソーシャルセキュリティ税、メディケア税も源泉徴収にて納付されていることになります。
ただし、雇用者への報告タイミングによっては、当年のForm W-2に反映されていないことがあります。
例えば、2019年12月分のチップを計算した書類を提出期限である2020年1月10日に提出した場合、雇用者のForm W-2の作成タイミングによっては2019年のForm W-2にチップ収入および源泉徴収額が反映されていないことになります。そのため、当該2019年12月分のチップは2020年のForm W-2(2021年1月発行)に反映されることになります。
一方で、このような場合は2018年12月分のチップが2019年のForm W-2に反映されている可能性があります。
確定申告書の収入欄(Form 1040, line 1)に、報告していないチップの金額(1か月のチップ受領が$20未満であったもの、受領した物の公正価値: Fair Market Value)を加算します。
【IRS Pub. 531に記載されているケース】
Ben Smith氏はBlue Ocean Restaurantに6/30から働き始め、給与として$10,000を受領した。6月は1日しか働いていないため、受領したチップは$18であった。年末までの残りの期間で受領したチップの合計額は$7,000であった。
このとき、Ben氏のForm W-2には$17,000の給与・チップの収入額が記載されているはずである。そのため、Ben氏は自らの確定申告書で収入額を$17,018と申告する必要がある。
$20以上のチップを受領しており、雇用者に未申告となっている場合は、Form 4137によってソーシャルセキュリティ税およびメディケア税の金額を算出し、報告する必要があります。
今回はチップの税務について解説しました。
基本は、
①月間で$20超を受領したら翌月10日までに雇用者に全額を申告すること
②所得税・ソーシャルセキュリティ税・メディケア税が源泉徴収されること
③ペナルティはSS税+M税の50%
④雇用者への申告漏れはForm 4137でSS税+M税を申告
を覚えておくと良いかと思います。
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