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KiLLKiSS を“読んで”
「詩って伝わる気がするよね」
大前提として、この言葉があります。「KiLLKiSS」から始まる物語、アニメ Ave Mujica における三角初華を語る上で、その詩に触れないということはあり得ません。
表題の通り、Ave Mujica 2nd Single 表題曲「KiLLKiSS」を読み、アニメにおける三角初華さんについて感じたことを書き連ねた記事となります。当然ですが、詞を読むこと、曲を聴くことは異なる行為です。その上で、この記事はあくまでも読んだ感想となっています。私にはこの歌を丸ごと消化する酵素がありません。
乱文となりますが、お付き合いいただけますと幸いです。
ちなみになんですが、歌詞をそのまま引用すると警告が来るらしいです!びびって引用少なめで記事を書いておりますので、お手元に歌詞カードか何かを用意して読んでいただけると嬉しいです。注文が多く申し訳ない。
アニメにおける彼女
「KiLLKiSS」の詩に触れる前に。端的に言えば、中身がないように見えます。状況はよく把握できているものの、核がない。3話で祥子さんとドーナツを半分こしようとしたように、愛情表現さえも借り物です。描写される彼女の一挙一動は、ただ豊川祥子さんのフォロワーとしてのものに見えます。
……書くことがない! だって中身がないんだもん。
「KiLLKiSS」の詩における彼女
中身の無さには自覚的
まず、彼女は Masquerade、ひいてはこのバンドを、“音のない音” が偏在すると称しています。その音がどう出ているかと言えば、豊川祥子さんによって無理矢理出されている、と。
三角初華さんは本当に良く状況を捉えています。このバンドには、バンドとしてやりたいことがある人間がいません。強いて言えば、にゃむちだけはバンドを利用してタレントになろうとしていますが、3話での発言の通り、別にバンドでなくてもいいわけで。
豊川祥子さんも、当初掲げた商業的成功はもう達成されたこともあり、CRYCHIC の幻覚を遠くに覚えながら、自分の理想をバンドに押し付けるばかりです。彼女がやりたいことは、バンドではなく己が理想のバンド。欲しいものは、仲間ではなく味方。3話に至るまでに、彼女の傲慢さは詳らかにされてきました。
ですから、私としては2つの主張に素直に同意するところです。しかしながら、この物語が始まったその時既に、三角初華さんはそれを見透かしているということで、それは特筆すべきことのように思います。
"Oblivionis" という名の由来には、自力で気付いている
「初華……全部忘れさせて……」と直接言われているので、気づかない方がおかしくはありますが。豊川祥子さんが何かを忘れようとしていること、そのことに葛藤し苦しんでいること、ちゃんと理解してるよと詩うわけです。理解のある彼くんってやつですね。
アニメ2話では、豊川祥子さんの忘れたい過去を母の死と勘違いしているかような描写がありました。ただ私は、少なくとも瑞穂さんの死を知る以前において、CRYCHIC の解散と祥子さんの悲しみを結べていたのではないかと思います。彼女の奥に悲しみがある、否定の出来ない真実としてそれを主張しようとするならば、なんかずくの根拠を持っているはずです。そして、1話の初華さん視点では、祥子さんが忘れようとしても隠し切れない過去なんて CRYCHIC の解散以外にないはずですから。
さて、非常に悪趣味なことに、作詞担当の初華さんは、悲しき過去絶対あるよね!と豊川祥子さんを詰め、挙句、"So what? (だから?)" と歌わせます。悲しみを虚勢で振り切りらせ、己に身を委ねさせるように。もしも彼女が、祥ちゃん好き好きの脳内お花畑なだけだったら、こんな性格の悪いアイデア出てこないですよ。ここだけ切り取れば、初華さんが祥子さんを挑発しているようにさえ見えます。でもその挑発、祥ちゃんには届いてないよ。
回帰するようにってフレーズ、幼いころの、島でのういさきのこと詩ってるとしたらちょっと引く。
Who KiLLKiSS whom?
"KiLLKiSS"
サビ。基本的に、英語で省略されうる主語というのは “I” しかないようです。三角初華さんは日本人ですから、日本語の感覚で主語を省略しているかもしれません。ですがそれでも、物語の中で歌っている初華さんこそが動作主体だと考える他ありません。
"KiLLKiSS" の主語は三角初華さん、それでは目的語は誰でしょうか? Judy, Jude, Juda. 手前の二つも簡単です。女性の名前、男性の名前ですから、Ladies and Gentlemen, つまり、Masquerade に集まる人々を指していると考えれば良いでしょう。では Juda は誰なのか。言わずもがな、豊川祥子さんです。
死の口づけ、裏切りを意味するこのキーフレーズの起源についてはもう多くの方が触れていますが、少しだけ。イスカリオテのユダがナザレのイエスを欺き、接吻により彼を指し示し、身柄を引き渡したことが処刑につながったため、裏切りの象徴となっています。wiki 情報ですが。
さて、ではなぜ KiLLKiSS の目的語としてユダがあり得るのか。そこは普通キリストであるはずなのに、ユダがユダを KiLLKiSS してるじゃんか。
思うに、三角初華さんは豊川祥子さんに騙され、利用されていることにも気付いており、その上で、祥子さんが壊れていくように仕向けているのではないでしょうか。騙されながら送る Ave Mujica での甘い時間を享受した上で、なお、祥ちゃんを操ろうとする。
こう見ると、“欺いて”、“抱きしめて” が2つともダブルミーニングになり、非常に通りがよくなります。祥ちゃんに上手く欺いて欲しい、抱きしめて欲しいという取り方、そして当然、三角初華さんが祥ちゃんを欺き、抱きしめるという意味で。
相手が騙そうとしていることをこちらが一方的に知る状況って、そりゃ相手のこと無防備だと思いますよね。初華さんの性癖かなり理解できた気がします。自分が下手に出ている形式を取りながら、主導権はいつでも握れる状況ってかなりえっちだよね。三角初華さん、気持ちめちゃくちゃわかるよ。
豊川祥子さんに望むことは
“私たちはみな1人だから”、から始まる Cメロ。三角初華さんは豊川祥子さんの苦しみに気づきながらも、それを積極的に分かち合おうとはしないんですね。単純にそうしたくないのか、様子を伺っているだけなのか、判断しかねるところです。3話のにゃむちvs祥ちゃんのレスバに割って入ったの、やっぱ単純に助けたかったわけじゃない気がするわね、こういうの読むと。
落ちサビ。モチーフを今一度考えると、血を流すのってキリストなんですよね。磔にされて、ロンギヌスの槍でもさされるやつです。やっぱ豊川祥子さんのことキリストとして扱ってんのかなとも思うんですが、ここは単純に、出血は彼女の苦しみを意味しているだけかなって思ってます。
”苦しみで過去を上書きしろ”って読むのが正しいのか、“苦しみで運命を書き換えろ”って言ってるのか分かんないですけど、まあ後者なんじゃないかと思います。や、それだとラスサビみたく醜い終局が待ってるんちゃいます?私のほしって言ってるけど、それも含めて書き換えてほしいんかな?とか色々考えてしまいますけど、三角初華さんが祥ちゃんに望むことは、Ave Mujica を祥ちゃんがどうしていくのか見届けたい、ってことなのかなと思います。
え、ずっと一緒に居ようね、とかそういうのじゃないんですか?三角初華さんは豊川祥子さんを独占したいのかな、みたいな発想はアニメから自然と出てきますが、意外なことに、詩からはその意図を読み取ることが難しいです。騙そうとはしてると思いますが…… 三角初華さんのことがまだぜんぜん分からないよ。
ラスサビ直前、豊川祥子さんに "KiLLKiSS" と言わせるのは、この詩全体を認めるよう言質取ってる感じがしてちょっと怖いわよ。ラスサビはフィナーレって感じで最高です。
補遺 : Bメロ
Masquerade における文字通りの浮遊感、そして異世界感を表現し、完全性・完備性へ至ろうとする様子を叙事しているように思います。まあ少なくとも人としては壊れていくし、待っているのは醜い終局なわけですが。あくまでも人としての価値観であって、人形としてはそれが "completenness" なのかもしれません。
なんとなく "ハーメルンの笛吹き" っぽい感じありますよね。パレードと月夜ってところくらいしか掠ってないですが。
プリミティブな意味でピアノの音が好きなので、Bメロの入りはお気に入りです。
これは “春日影” なのか
さて、一通りのフレーズに対して感じたことを書き出させていただきました。「KiLLKiSS」を真面目に読んだのはCD発売日のことで、それまでは「Ave Mujica の楽曲って正直よくわかんないんだよね」くらいに思っていたこともあり、かなり驚きました。先行上映で観ていた三角初華さんの姿とは異なる、詩における三角初華さんの姿。中身がないと思っていた彼女の中身を、彼女の詩で体感させられてしまいました。歌唱からの印象も含めれば、心の叫びといってもいいような。
三角初華さんから見た Ave Mujica の印象、そして豊川祥子さんへの想い。春日影における孤独の吐露はないものの、三角初華さんによる春日影と言っても過言ではないと思います。
何故、急に春日影にこじつけるのか。まあ、豊川祥子さんの話をしたいからです。アニメの話になってしまいますが、正直なところ、豊川祥子さんが一番バンドできてないと思ってます。
CRYCHIC の頃、彼女は燈さんの歌詞を見て、これはこういう意味なんじゃないか、とか言っていたらしいです。長崎そよさんが言ってました。「春日影」を初めて読んだ時も、「春日影は、わたくしたちの詩ですのね」と言ってましたよね。なのに今となっては、三角初華さんがこうも想いをぶつけているのに、何も気づいていないように見えます。彼女の余裕のなさが本当に苦しい。
そもそも、豊川祥子さんは歌詞に曲を付けるタイプで、曲が先行するタイプじゃないと思うんですよね。彼女も彼女で、中身があるタイプではないですから。最終回では、三角初華さんの書いた詩に曲を付ける形で大団円を迎えてほしいと思っています。詩超絆をもう一度。
完全に脱線しますが、MyGO!!!!! における春日影は「回層浮」です。
さて、記事をここまで書いて思うこと。なんか脅迫じみてさえいる気がしますね、この詩。現在の状況、豊川祥子さんのやろうとしていることは把握していて、その上で自分の要望を伝える。祥ちゃん私のこと騙してたよね?みたいな。でもまあ、彼女自身がだいぶ拗れてて、豊川祥子さんへの想いもちょっと拗らせてるだけで、豊川祥子さんのこと好き好き人間なのは間違いないと思う!
三角初華さんへ、あなたの詩が彼女に伝わることを祈ります。
豊川祥子さん、燈さんが信じるあなたを私は信じてますよ。
想定問
以下、私が書いたことに対して私が思う意見・疑問です。
Q. 歌を聞け歌を
A. 仰る通りです。精進します。
Q. あなたと you ってどっちも豊川祥子さんでいいの?
A. 多分いいと思う。
Q. Judas なり Judah という書き方がされてないけど、Juda は本当にイスカリオテのユダをモチーフにしているってことでいいのか
A. 正直わかりません!むしろ教えてほしい。正直インターネットの知識しかないです。
Q. 落ちサビの惑星ってなんだろうね
A. 多分土星なんだと思います。KiLLKiSS に出てくる惑星って、モーティスのタロットカードに載ってる土星しかない気がするので。モチーフとして関係ありそうなのは、ベツレヘムの星だと思います。
惑星に影を伸ばせ、というフレーズ自体は、悲劇的な結末さえ予期されるけれど、それでも前へ進め、くらいの意味で書かれてるんじゃないかと考えてます。
Q. やっぱ豊川祥子さんはキリストとして配役されている方が落ちサビの通りがよくない?
A. それはそう
Q. もっとモチーフへの理解を深めるべき。
A. あくまでもこれは叙事詩ではなく、三角初華さんの抒情詩だと思っています。それを踏まえると、このくらいの深度で読むのがいいのかなと。
Q. 三角初華さんがこの詩で何か伝えようとしてる、とは限らないのでは?
A. それはそうかも。実際、インタビュー記事で Diggy-MO'さんも、「コンテンツの世界観に左右されない音楽そのものの独立性も、楽曲にとっては重要」って言ってましたし。アニメを重く背負わせてこの詩を読むことは間違いかもしれません。でも私はオールインします。