【読む刺激】『職業としてのシネマ』
洋画配給の現場から 映画文化をめぐる問い
《初出:『週刊金曜日』2021年10月29日号(1351号)》
映画館の興行規制など、コロナ禍による映画業界へのダメージ。他方で目覚ましい、ネットフリックスなど動画配信サービス(以下、OTT)の伸張。
映画のあり方が OTT に代わられる気配さえある昨今、『ワンダーウーマン』シリーズで知られるパティ・ジェンキンス監督の発言が注目された。
2021年8月末、米紙『ロサンゼルス・タイムズ』のイベントで、OTT が映画と称するオリジナル作品は「フェイク(映画のまがいモノ)にしか見えない」と言ったのだ。
本書は、欧州映画専門の配給会社を1987年に興し、多くのヒット作を通じてミニシアター隆盛に貢献してきた著者による配給業界事情である。いちばん考えさせられるのは、パンデミック時代の映画を考察する第6章だ。
「35ミリフィルムの映写機で、決まった距離からの投影。映画は、そういう方程式で作られているんだ」とか「映画館では観(み)れるモノが、画面からなくなってしまうんだ。ビデオやDVDとかだとね」といった、ジェンキンス監督とも重なる、映画監督たちの切実な言葉。
それらをいま引用している意味である。
テレビや PC からスマホまで、質も規模もバラバラな鑑賞環境が選択肢のひとつならともかく、それしか選択肢がなくなったら映画はつくれない、成立しない。
映画文化は重大な岐路にある。その行く末は、大きく、観客自身に委ねられているということだ。
(追記:2022年6月11日)引用文中のゴシック処理はさこうによる。
『職業としてのシネマ』
髙野てるみ=著
集英社新書 定価860円+税
ISBN978-4-08-721166-5