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野尻湖と木かげの森の小人たち

知り合いのアメリカ人の何人かは、夏になると野尻湖に行ってしまう。
ご本人達曰く、「軽井沢がお金のある人達の避暑地なら、野尻湖はそうじゃない人達の避暑地。」
nojiriko.comによると、野尻湖にカナダ人宣教師を中心とした野尻湖国際村NLA(Nojiri Lake Association)が誕生したのは大正10年の事だとそう。
YMCAの野尻キャンプも、そういう宣教人社会の延長で野尻にできたのだろう。ミッションスクールに行っていた人には、野尻キャンプって割と知られたキャンプだと思う。
というか、いわゆるキャンプやネーチャリングの元祖みたいな感じかもしれない。母校にも野尻キャンプ委員会などあって、毎年、かなりワイルドな人生が変わる体験(と友人達が言っていた、私は参加したことはありません)をできる場を提供していた。

夏になると野尻湖に移動してしまうキャシーが、ノリコ、野尻に来ない?
と誘ってくれた。COVIDのために、人々の行き来もほとんどないけれど、東京は暑くてかなわないから、いられる限りはこっちにいようと思っているのよ、よかったらいらっしゃい、という嬉しいオファー。

そういえば、私が最初に野尻湖と宣教師のことを知ったのは、「木かげの森の小人たち」っていう童話だったわ。そんな話をキャシーにした。他にも何人か野尻の住人がまわりにいるので、「日本の童話でとりあげられているの?」と興味を持つ人もいて、実に50年ぶりくらいに、この本について調べて見た。

いぬいとみこさんが書いた創作童話のストーリーはこんな感じ
イギリス人の宣教師から日本人の男の子がこびとを託される。
面倒をみてあげてねという宣教師のいいつけを守り、家の書庫でこびと達の世話をし、それが弟に、妹に、さらには子ども達へと引き継がれていく。
時は太平洋戦争前後。
こびとを預かった少年は英文学者となり、政府を批判したことから思想犯として検挙される。彼の3人の子どもの一人は京大へ。もう一人は、投獄された父の分、集団疎開から検診ではじかれるほど体の弱い妹の分まで、僕が愛国者とならなければと、幼年学校を目指す愛国者へと育つ。そして、「敵国の」イギリス出身のこびとたちの世話をする妹のゆりを「非国民」だと非難する。
子ども達の母親の透子さんは、オーストラリア生まれ。両親はオーストラリアに残り、子どもに日本の教育を受けさせるべく日本に娘を帰し、そこで娘は日本人と結婚。国粋主義に違和感を感じながら子ども達を育てる。透子さんは、アメリカ移民の中でよく言われる「帰米」だろう。帰豪という言葉があったかどうかはわからないけれど。
そんな状況の中、ゆりは、祖父母が引退してから住んでいた野尻湖に疎開することになる。そう、宣教師達の避暑地だった野尻へ。ゆりが疎開先のおばさんの家に向かう光景には、主が国外退去となり、空き屋になった宣教師の家々の脇を通る光景が出てくる。
東京大空襲でゆりの実家は焼け落ち、こびとたちの書庫もなくなってしまう。そして終戦。ゆりは、こびとたちを連れて東京へ戻ることになる。そこで、ひょんなことから、彼女の父親にこびとを託した宣教師のめいごさんが、託した一家を探しているという情報を得て、彼らをイギリスに帰すという話になる。

話は、日本に取り残されてしまったイギリス出身のこびと達一家の生活と、それを守ろうとする子ども、自分の信じるものが国粋的考え方と乖離していくことの生み出す軋轢……みたいなものが中心なのだけれど、その下に、静かに流れる日本の女子教育や初等教育に携わってきた、多くの女性宣教師達の姿や、彼らの持ち込んだ文化の流れを感じる。

そして、今回、ここに、ハっとするような発見があった。
実は、子ども達にこびとを託した女性宣教師が、ミス・マクラクランというのだ。本の中の設定では、イギリス人の独身の宣教師。明治時代に「日本にはイギリスや西洋で失われた美しい心が残っている」という言葉に惹かれて来日した、とある。
マクラクランというのは、あまり聞く苗字ではない。日本に来た宣教師に5人も十人もいそうな名前でもない。が、ちょうど、この物語の前後に日本にいて、同じように祖国に帰ったミス・マクラクランを私は知っている。
3月まで取り組んでいた、静岡県のやまばと学園の前身を作ったのが、カナダ出身の宣教師ミス・マクラクランだったのだ。あまりの偶然といえば偶然。まぁ、ものすごい偶然っていうのはあるかもしれないけれど、この名前をわざわざ使うのは、しかも、こんな重要な役割を担わせるには、どこかで筆者のいぬいさんと静岡のマク先生(そうよばれていた)に接点があったんじゃないだろうか。
そう思わずにはいられなかった。

以下は、忘れないうちにメモしておこうと、やまばと学園のミチコ理事長に送ったメール。

(物語中のミス・マクラクランは)場所は横浜ですが、女子校で英語の教師をされ、一方で、学校の寮には住まず、地域の方々(特に子ども達)を招いて英語を教えておられたという設定です。
マク先生と重なりませんか?
作品の後半で、ミス・マクラクランは、軍国主義の中で美しい心は失われ、拝金主義と軍国主義が国を支配し、美しい心を持つ人達が苦しんでいくことへの批判を雑誌に投稿したことから国外退去となり、船の3等室で帰国することになったために、こびとたちをつれて帰るのは不可能だと判断して子ども達に託したという話が出てきます。
フィクションですから、複数のモデルを一つにまとめた可能性も高いと思うのですが、この珍しいマクラクランというお名前がひっかかっています。

もう一つ、いぬいさんは、静岡生まれなのです。それでどこかでマク先生と接触があったのかなと思ったのですが、調べてみると、2才で東京に転居、その後東洋英和にいらしたようです。

でも、静岡、マクラクランと続いてくると、どこかでいぬいさんとマク先生、あるいはもしかしたら、長沢先生もつながっていらしたのではないかなぁなどと、そんなことを考えています。

縁は異なもの。
10年前に、長沢先生の伝記を書かせていただいたときも、いろいろな組織がつながっていて驚いたものだったけれど、今回ももしかしたら、どこかでお二人が、あるいはお三人がつながっているかもしれないなぁ、どこかでそれがつながる瞬間に立ち会うことがあるかなぁと、そんなことを考える。


得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)