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『ぼくの火星でくらすユートピア⑹』
風のせいで相棒が詰まった。
あゝ僕ったらどうしてこう計画性が無いのだろうか。体力の温存だと家にばかり籠っていたせいで今の僕ときたら息がまるで続かないのだ。お陰で相棒は風に詰まったままむっつりとしている。
おお相棒よ。僕だってこんな不細工な格好は嫌なんだ。お願いだからその気になっておくれよ。
コンクリートの剥がれた道は僕たちには厳しい。僕はガクガクするしか道が無い。
もうここで止まってしまおうか。そう考えていると気まぐれに追い風が吹いた。追い風は相棒を気持ち良く前進させた。僕も叫びながら車に乗り込む。なんだ僕たちはまだ見放されてはいなかったのだ。
いやっほお。ぐちゃ。ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。
僕は呆気なくタコを引いた。地面に転がっていた奴だ。気流に目隠しされて見えなかったのだ。タコは酔っぱらっていた。酔っぱらって僕の道を布団と間違えて寝たらしい。確かにぼんやりした道だ。しかし道は道だ。だが奴は一丁前に文句を言ってきやがった。
案の定僕はヘラヘラして何も言い返せなかった。
タコはといえば重症だった。2本目の腕と8本目の腕が骨折。5本目の腕は切断だった。
僕は切り取られたタコの足の火葬費用も払った為すなわち火葬場へも付き添った訳だが。強い焚火で煙りに化してゆくタコの足の薫りは何とも美味であった。僕は思わずお腹を鳴らしてしまい坊さんがいなくなった後でボコボコにやられた。
鉄の味を舌に絡ませながらハンドルを握った。気がついた。
タコにも主張が与えられるのに僕の意見は点で無視であった。その理由は分かっているんだ。
あのですね。ええっと。ええ。僕はですね。相棒。ええっと。へへへ。この車のことですがね。違います。あなたを笑ったんじゃないんです。僕はその。へへ。全くですね。こう。喋り慣れていないものですからね。あの。ええっと。ええ。それでいいです。