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『ぼくの火星でくらすユートピア(12)』
さあ。相棒よ。もうすぐ。先は。もうすぐ。
相棒は僕を乗せ。勇猛果敢に水と戦う。
僕はといえば。フロントガラスにくっついてくる記憶と戦ってた。
僕の話を聞かないイッカク。
僕を脅したタコ。
僕を捨てたイカ。
僕を見限った僕。
相棒は進む。僕も進まなければ。進まなければ。取り残されてしまう。この深い海の中に。この暗い海の中に。
僕はハンドルにしがみついた。前を見る度。僕の胸は締め付けられるようだった。
苦しい。
苦しい。
この掻きむしりたくなる苦痛に。息の詰まる様な恥辱に。藻掻く様な有様に。
僕は逃げたい。
逃げられない。
進まなければ。逃げることさえできない。
ここから出なければ。
僕は悲鳴を上げながらアクセルペダルを押し込む。
光。溢れる。光がそこにあった。
《ユートピア》──もし。もしも。もしも。この物語が本当であってくれたなら。僕が実際であってくれたなら。向き合った僕が。事実であったなら。
濡れた服を乾かす暇も無く僕は止まった。
ここのコンクリートは綺麗だ。なあ。相棒。
相棒。まだ。お前は走れるか。僕は。もう一度。
マッチを擦れば火が付く。火なら乾かしてくれるだろうか。
相棒。また。お前は走れるか。僕は。もう一度。
扉は閉めたか。次に扉を開ける時。
先に。