短時間小説「夢の中で」

目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。
空気は澄んでいて冷たい、幽霊が今にも出てきそうな雰囲気がする。

「ここは、、、」

寝る前はエモいBGMを垂れ流しながら暖かいベットで眠りについたはず
そこからの記憶がない、、
そうか、これは

「夢だ」

そう思い、腰を上げて歩き始める。

ボロボロの壁や柱、澄んだ空気が出入りする割れた窓たち、
大きな壁にはスプレーで書かれた大きな絵
辺りを見て分かったことがある。
ここは廃墟だ。画像や動画で見たことがある。
だけど廃病院なのか廃ビルなのかそこまでは分からない。
割れた窓ガラスから顔を出すとそこには辺り一面に木々が広がっていた。「まあ夢の中だし気にしなくてもいいか」と
思いながらもまた歩き始める。

しばらく歩いたら階段を見つけた、上と下に行く階段を。
下に行けば出口が見つかるかもしれない
と思ったがなぜ直観が階段を上がらせた。
上の階が気になるよりかは下には行ってはいけないと
いう気がした。

薄暗い階段を上がると[ぱちぱち]と何かが燃える音が聞こえた。
覗いてみるとそこには燃える焚き火があった。

焚き火に近づくとそこにはグツグツと音を立てる焼鳥、サバの缶詰
と鍋入ったたっぷりの水が火にかけられていた。
「いいにおい」と思ったその時おなかが鳴り空腹が襲った。

「起きたか」
と建物全体に響く声が聞こえた。

階段を上がる音が聞こえる、誰かが来る、どこかに隠れなくては
と思った時には手遅れだった。
階段から出てきたのはボロボロで何日もお風呂に入っていいなさそうな
ゴワゴワの髪の毛に身長190㎝はある大柄の男だった。
失礼だが見た瞬間にホームレスと分かった。しかも大きい斧を持っていた。
ここで夢は本当に何でもありと理解した。

「腹、すいてんのか?」と聞かれ僕はうなづくことしかできなかった
いくら夢とはいえその男は怖かった。
そしたら「そうか少し待ってろ」
と優しい声が返ってきた。

聞いているとその男は長い間この廃墟にずっと一人で暮らしているらしい。
外には畑があり普段はその畑でとれた野菜を食べている。
たまに野菜が多くとれた時はその野菜を売って、
深夜のコンビニで缶詰とパックに入った白米を買うらしい。
持っていた大きな斧は、焚き火に使う木を切るためなのだろう。

そんな話を聞いて自分の気が付いたら口も動き出していた。
好きなゲームや好きな食べ物、渋谷や新宿の都会の話、
親が医者をやっていて帰りが遅いなど色々なことを話した。
それを男は静かに聞いてくれた。
話していると「ほら、食え」
とお湯で温めた白米に温かい焼鳥が乗っている。
普段はこんな物は食べないし食べたくない。
まして缶詰なんか、、、だが空腹には逆らえない
木の枝から作ったであろう箸を手に取り、 
口の中に入れる。また一口、また一口。
手が止まらない。
「おいしい」ぽつりと口に出た。
「ふはは! そうだろう!!」
男は嬉しそうに声を出した。
「普段、肉は食えないから沢山食えよ」と言ってくれた。
男も肉をたまにしか食べれないはずなのにと
申し訳ないと思いながらも食べた。

話しながら食べていると夜も明けてきた。
もう朝が来るのかと思い
男に「じゃあそろそろ起きなきゃなので失礼しますね。」と伝えた。
そしたら男は「起きる?何言ってんだ?」と返してきた。
?起きる??「自分は今寝ているはず」と言った。
男は「そうか寝てたから分からなかったのか」
そうして男は大きな斧を手に取り

    「おやすみ」

と言ってくれた。

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