かわいいの呪い
「鏡で顔を見てみなさい。誰が見ても、あなたは顔でご飯をたべていけないでしょう?」
3世代にわたって口頭伝承された言葉。
この後には、「だから勉強をしなさい」という一番伝えたいメッセージが伴った。
私が育った阪神、と言われるエリアはお笑い文化が盛んでスクールカーストも笑いで決まる。
かつ兄弟構成は3人姉弟の真ん中。幼いころから自立した風な顔をした結果一番のかまって欲しがり。
高校は、クラス40人中、32人が女子のほぼ女子高状態。
言い訳がましさもあるが、許してほしい。
「教え×笑い×真ん中っこ」の相乗効果で
わたしは「かわいい」のエアポケットに入った。
おまけに冒頭の一言。わたしは呪いの沼に入った。
大学進学のタイミングで関東に出てきたときには
男の子がモデル級ではない女の子たちに「かわいい」と言っていることに対して、
女の子が自分に対して「かわいい」と言ってくることに対して、
鳥肌が出るようになってしまっていた。
「かわいいの呪い」の裏のメッセージをくみ取ってせっせと勉強をして
大学に入ったが、学名を口にしたら他大学の人には避けられるようになった。
居酒屋で膝と膝をずっとくっつけていた男の人が
わたしの大学名を聞いて膝頭を外した瞬間の驚きは忘れがたい。
社会でると自我は多少丸くなったし、気質は穏やかになったが感度は相変わらずだった。
そんな中、マジックワードの発案者が亡くなった。
喪失感はあるが、ほっとした。そして戸惑った。
呪いをかけても彼女は解いてはくれない。
自分と自分が築いた人間関係の上で解き放たないといけない。
葬式もでず、小さい人間だなとは思いつつ、
今これからを生きるためには遺体という「過去」と向き合うと
ゆり戻されてしまうので距離を置かせてもらった。
時間をかけながら周囲には、みっともない自己表現をしているが
理解のある人たちと向き合うにつれ過去の自分の心が救われ、呪いが解けてきた。
強烈だけど、解くことができる。
「かわいい」の呪いは解くことができる。
あなたにも呪いがあったら。呪術者とは仲良くしないで。
今あなたと向き合ってくれる人、大事にしてくれる人と仲良くしてください。
自分への信用貯金も蓄えつつ、ぜひ人と生きていきましょう。