記憶の行方S5 小さな出来事 真夜中のロック

最後にかっこいい人たち出るから、聴きに来て、と、お店の人に呼ばれて、仕事終わりにタクシーを飛ばして来た。少しだけウィスキーをロックでいただきながら、その時を待っていた。

疲れ切っており、とりあえず、聴くか、そんな軽い気持ちで聴きに来ていた。

最後にステージへあがった方は、トリオだった。確かにフロントマンは、これまでの出演者とは違って華があるなぁと聴いていた。

ステージから、つかつかとサックス持ったまま、その人は歩いて来た。

「結婚してください!」

初対面でその一言は唐突過ぎる。

「え?」(どうかしてるな)

それから、しばらくの間が空いて、笑い合って、呑んでいた。確かに面白い人だ。しかし、何を話したか覚えてはいない。

次の日の朝には、面白いことしか残っていなかった。

朝10時には、仕事を始めるため、そろそろ寝に帰ろうと朝5時頃、コースターに電話番号が書かれていて、渡されたが、置き忘れたふりをして、そのままにして、自宅へ帰ろうとしたが、コースターを両手で渡しに来たので、おそらく、いい人だと咄嗟に思い、受け取った。

初対面で、冗談を言える人とは、仲良くなれそうだが、そのコースターは、自宅のテーブルに放置していた。

「そうーなーん、ですよー」

と、軽く小馬鹿にしている語尾を伸ばした話し方をするやつと、靴の先がトンガっているやつ、それから、始めて会うのに、一生ついていきます!と、強く握手してくる人はいまだに信用できないと思っている。

ちょうどその頃、わたしはラジオ番組で、音源を探してくる担当だった。かっこいいなと、思える音源を耳にしたら、番組の冒頭にオンエアしていた。

10代のリスナーが1番聴きたい番組一位になり、視聴率は伸びていた。仕事が絶好調に面白くなっていた。

一人で30枚の葉書を送って来る方がいらっしゃり、その熱は、どうして向けられるのか、かつての10代だった頃を思い出して、全て、読んでいた。同じメールは、何通も送らなくても、読んでいるから、と、メールを30通は、流石にまずいと、ディレクターは、送り主を追跡して、反省文を提出させるという行動に出た。

ひとまず、私は、ハガキを読んでは、プレゼント当選者に手書きで一通ずつ手紙を添え、プレゼントを送付していた。

突如、居眠りが増えた。酔っ払っているにも関わらず、ブランコに揺られて気分が悪くなったり、やたらと太巻きが食べたくなったり、すももが食べたくなったり、トマトの匂いとそれまで使っていたハトムギの化粧水の匂いがすると胸焼けがしてきた。

朝は寝汗を大量にかき目覚めた。

「なんか、太った?」

15時過ぎは、居眠りが増え、社長に

「病院行ってこい、なんかありそうだ」

と、声をかけられて、しぶしぶ、通院すると

「産婦人科に行ってみてください」

と、言われる。

「?!」

そう言われて見れば、毎月定期的に来ているものが、来ていないことに気づいた。

検査キットで確かめたらプラスの反応。

(?!)

わたしの身体の中に一人の人間がいた。

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