記憶の行方S31 小さな出来事-頬に添えた手

シーン31○海の見える家

ベッドに横たわる男。

「お父さん、ありがとう。」

紺色の服を着た女は、横たわっている男の右手のひらに左手を重ねた。

(冷たいね。)

瞼を閉じたままの男は小さく笑った。

女の手は、酷く冷えていた。

女は、男の左頬に右手を添えた。

(冷たいよ。)

男は、笑いながら涙を流した。

僕は、それを女の隣で見ていた。

緑の丘には、うぐいすが鳴き始めていた。

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