記憶の行方S23 小さな出来事-ファミレス
A「他人の私生活を覗き込んで、面白い?どの道、自分の正体と向き合わなきゃ、意味ないのよ。」
B「どの道、僕たちは生きていく。」
C「それ、なんだっけ?」
B「ドライブ・マイ・カー」
深夜のファミレスでの会話は続く。
C「いや、それ、ワーニャ叔父さん、だろ。」
A「こんな汚い顔して隣で寝てる人、絶対ムリ。父親?無理無理、絶対無理!蛆虫と共に年とって生きなさいよ。それがあなたのためだから。」
B「そんな台詞ダメでしょ。そもそも、発酵と腐敗を一緒にすんなよ。なんか、こう、発酵するような、匂い立つような、台詞あるでしょ。」
A「言いたいこと、言った方がいいよ。わかってないんだよ。リアルがどんなものか。」
B「リアリティないよ。リアルとリアリティは、違うだろ?大体、シナリオに、現実、突き詰めて、どうすんの?観ている人を旅に連れて行くのが、映画でしょ?」
A「うあ、マジ突っ込み入ったわ。じゃあ、どんな台詞にすんの。強い台詞じゃないと観客には届かないよ。」
B「台詞だけに頼ってもしょうがないでしょ。」
C「だからー、どんな展開すんの。こっから。具体案出してー。沈黙すんなよ。ここからが面白くなるところでしょ。」
深夜のファミレスでは、BGMは聞こえない。厨房から、一人の店員が出て来た。熱いお茶が、テーブルの上のシナリオに置かれた。
A「あっつっ!」
店員「朝食メニューに変わります。メニューをお下げしてよろしいでしょうか?」
B「はい、どうぞ。」
C、熱いお茶を飲む。
C「うわー、沁みる〜。」
A「取り敢えず、ビールで。」
B「なんで、朝から呑むんだよ。まだ、終わってないから!」
C「そうそう、俺らの物語、まだ、何にも始まってないから。」
A「巻き戻してぇ。俺の人生。」
B「戻れないの!過去は、終わってるの。」
C「今に生きてぇ。」
結局、シナリオ会議は朝10時まで続き、くじ引きで決まったチームで、ぼくたちの出来上がったシナリオを提出。ぼくたちは、提出期限ギリギリにいつも出す3名で、くじ引きと言われたが、意図的に組まれたチームのようだった。
演出家は、
「どれもこれも、だめだ、本気で嘘を突き通す、強い欲望がなければ、何にも撮れない。恐れていたことが、起きてしまった。もう少し早めに介入すべきだったよ。」
半ば呆れ顔で、その場で書き始めた。
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