記憶の行方S15 Emoll /Gdur 小さな出来事 旅の始まり
17歳の誕生日に一つの木箱を渡された。
箱を開けてみると、
僕が生まれたばかりの頃の祖父と産まれたばかりの僕の写真。母の母のモノクロ写真。僕が生まれる前に聴いていたクラシックのレコード。Kさんが描いた母の横顔のデッサン。父の一枚のジャズアルバム。母が関わった音楽アルバムと映画のシナリオ。そして、Iさんが描いた譜面が残されていた。
父のアルバムは、小学生に上がる頃、一度聴いたことがあった。CDが珍しく、聴いていた。
母は、父に出会う前にデッサンモデルのバイトをしていたらしい。
父のアルバムを聴いた頃、母の友人の作品が発表されたからと、美術館へ日本画を観に行ったことがあった。描かれた母は、浴衣姿だった。安心しきった肩のライン、正面を向き凛として穏やかな表情で前を見据えて立っていた。母ではなく、僕の知らない女性のようだった。八百屋にカメラを持ってやってきていた男性がいたことを思い出した。母は、僕を見る目とは違うまなざしで、あの男性を見ていた。きっと、恋をしていたんだな。しかし、なぜ、母は、一度も結婚しなかったのだろう。まるで、帰って来ないはずの父の帰りを待っていたようだ。
僕は、カメラを持ち、旅に出る事にした。まだ、見たことのない景色を見てみたいと思い始めていた。
父は、メキシコの空を眺めて、最期、死の淵で何を夢見たのだろう。
僕はその空に夢の続きを見てみたいと思う。
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