おさけの限界値を突き破った日
「うまいぞ、ここの日本酒は」
と何度言われても、
「わー絶対楽しいやんー、最高」
くらいにしか考えていなかった。私は甘かった。
入ってみると、全然想像していなかった光景が目の前に現れた。日本酒がグラスで一杯3000円以上するのがあるのだ。しかもいくつも。私は思わず、
「これって瓶のお値段ですか…?」
と先輩に聞いたが、やっぱり一杯分らしい。これまで一杯800円台までの世界しかしらなかったのに、ここのお店は一足飛びで私の常識を超えてきた。
とはいえ、そんなのは高すぎて私には関係ない。身の丈にあった1000円以内のおいしいやつを飲もうと思っていた。それでも一杯がその値段って私には高いが。
でも、先輩の
「…頼みます!!」
というゴーサインにより、その3000円超の贅沢日本酒をいただくことになった。
目の前でとくとくと注がれる別世界の日本酒。名前も十四代の七垂二十貫という、いかにもな仰々しさだ。
恐れ入りながら一口飲んでみる。すると口の中で色んな旨みが踊り狂う様(さま)に、
「これが日本酒の芸術の極みかぁ」
としみじみした。おいしいのはおいしいのだが、うまく言い表せない。これは美術館で素敵な絵画を見たときに、感動しているのにうまく言葉が出てこないのと似ている気がした。本当にいいものに出会うと言葉を失うのだ。しかもそれは、分野という垣根を越えて共通するものだったらしい。
今まで、おいしい楽しい日本酒しか飲んだことがなかったが、この日は私の日本酒の限界値を大きく突き破り、芸術的な日本酒の世界を知ってしまった。
今でも信じられないくらい、ありがたい体験。ありがとうございます、先輩。やっぱり先輩は素敵です。