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バッハを弾いてみて⑤
生徒さんたちにバッハを弾いてもらうとなると、私も背筋が伸びる思いで楽譜に向かいます。
生徒さんの数だけ同じ曲を何度も勉強させてもらえて、私はまるで美味しいおこぼれをちょうだいしているかのようです。
我がピアノ教室の子どもたちは、専門的に進む子以外は次第に塾やクラブ活動が忙しくなり、好きなものだけ弾くようになります。
大人の生徒さん方は、ピアノを習うのならバッハもやらなくては!と思ってくださってはいるものの、
なかなか時間も無くて練習しきれない。というのが実状でした。
ですが一人だけ、
私が言ったままを申し訳ないくらい素直に受け止めてくださる生徒さんがいらっしゃいます。
前出の、現在パルティータの2番を弾いていらっしゃる生徒さん。
インヴェンション、シンフォニア、フランス組曲全曲が終わったところで、
「主人がパルティータが好きなのでパルティータをやってみたいです」と仰いました。
この方は、小さい頃からピアノを弾いていましたが、「好きなものを好きな時に習っていた」そうで、初めてうちにいらした時、オクターブも届かず、指も動かず、弾く時は第3関節が引っ込んでしまう…
そんな手の持ち主でした。
が、共に歩み20年、彼女の成長ぶりはとても輝かしいです。
彼女のお陰で数々のバッハの作品を復習することができ、また、弾いたことのないパルティータは一緒に譜読みをし、音楽を作っていきました。
そして先日のレッスンの時、
「あんなに拒否していましたが、バッハを弾いてみて、やって良かったって思ってるんです。今の私には、もうバッハは欠かせません。」
と言ってくださいました。
これまでに彼女はバッハと並行して、沢山の作曲家の作品も弾いてきました。
今はショパンのプレリュードの中からゆっくり弾けるものを選んで弾いていますが、「バッハと通じるものがありますねぇ」とか、「バッハのおかげで曲の譜読みが早くできるようになりました」と、とても嬉しいことを言ってくださいます。
速いテンポで弾けないものはゆっくりと、でも、リズムや拍感である程度舞曲らしくなるようにまとめます。
私の方は一つ一つをちゃんと弾けるようにはなっていませんが、勉強させてもらっているおかげで、バッハはとても身近に感じます。
20年も続けてくれて本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
これからもずっと一緒に勉強させてもらいたいと心から思います。