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【映画】世にも怪奇な物語

世にも怪奇な物語

 私が幼い頃、テレビの深夜枠でこの映画をよく放送していた。
 おそらく私が観た初めてのホラー映画(の一種)になると思う。
 しかし、私にとってこの映画はホラー映画としての価値を持っていないし、実際この映画に関する記憶はほとんどない。
 私の記憶に強く残っているのはこの映画の中のたったひとつのシーンだけである。
 この映画はオムニバスになっていて、その中の1本「影を殺した男」に登場するワンシーンを私はいまだに時々、突然想い出すことがある。

影を殺した男

 覚えているのがワンシーンだけなのでこの話の細部は覚えていないが、アラン・ドロンの美しく冷たい表情とブリジッド・バルドーの美貌が芸術的だった。
 ぼんやりとした記憶だが、映画自体はとにかく不気味で幻惑的なイメージが執拗に繰り返されていた印象。

 この映画の中で、アラン・ドロンの演じる軍人はブリジッド・バルドーの演じる貴婦人にカードゲームを持ち掛け、イカサマで勝利する。
 事前に、男が勝った場合、女を好きなようにできるという約束が交わされている。
 勝負に勝った男は女のドレスをずらし、生身の背中を鞭で打つのだ。
何度も何度も、激しく鞭で打たれる女。
 きっちりと綺麗に結い上げられていた長い黒髪が梳け、それを振り乱しながら女は鞭を受け続ける。女は打たれる度に仰け反るが、顔が乱れた髪に覆われてその表情は見えない。
 女の背中には紅く血の滲んだ鞭の跡が幾筋も刻まれていく。
 女を存分に痛めつけた男が女を振り向かせると、毅然とした表情の中、頬に涙が流れている。

サディズム

 この50年以上も前に観た映画のワンシーンがなんのきっかけがあるわけでもなく、フラッシュバックの様に脳裏に蘇る事が度々ある。
 今になって、これが私の経験した初めてのサディズムだったのではないかと思える。
 その後、幾度となくこの映画を観たが、相変わらずこのシーン以外には興味が湧かず、思春期の頃にはこのシーンに性的な興奮を覚えるようになった。
 このシーンの最後に女が見せる涙は肉体的な苦痛と共に、見ず知らずの男に痛めつけられ素肌を傷つけられる屈辱によるものが大きいのではないだろうか。

 私の気質の中のサディズムと、女性の髪へのフェティシズムがこのシーンによって覚醒したのかもしれないと、今は思う。

この映画について

 幼い頃には当然知らなかったし、成長してからもこの映画自体についてそれほど興味があったわけでもないのだが、怪奇映画としては古典的名作に入る作品で、後日知ったところによるとこの映画に登場する3本の作品はエドガー・アラン・ポーの小説が原作となっていて、それぞれ違う監督が担当している。
 出演者は、アラン・ドロン、ブリジッド・バルドー以外にジェーン・フォンダ、ピーターフォンダ等、後の名優揃いだし、監督もルイ・マルやフェデリコ・フェリーニという巨匠である。
 ちなみに「影を殺した男」はルイ・マルが監督している。
 私は件のワンシーンが強烈過ぎて他に興味が持てなくなってしまったが、冷静に鑑賞できる目を持つ人には古典ホラーとして楽しめる作品だと思う。


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