【短編小説】幸福の勇気#1
寒村
寒村という言葉の意味を調べてみると、生産が乏しい、貧しい、さびれた、ひと気が無い、そういうどちらかと言えば視点はあくまでも経済に向いていてその意味で困窮している村を指すようであり、ことさら寒い場所でなければいけないという風には定義されていないようである。
ここに勇気と言う名の少年が居る。10歳になる。
しんしん。
彼の暮らす村は貧しい。
しんしん。
彼の暮らす村はさびれていてひと気がない。
しんしん。
その上更に彼の暮らす村は寒い。
一般的な定義上に「寒い」がプラスされた正真正銘文字通りの寒村に彼は暮らしている。
しんしん。
彼の住む家には柱があり屋根があるが本来4面になければならないはずの壁が3面にしかない。開いた1面から吹き込んだ雪と風は家の中を駆け巡り吹雪となって暴れまわった挙句に来た方向に吹き抜け帰っていく。
勇気に父は無く、母は売春婦だがセックスが嫌いである。もう、本当にどうしようもなく切羽詰まって已むに已まれぬ事情があれば街角に立って勃起不全の高齢者の力なく萎えたペニスをしゃぶり、やがて仰向けにしてそのだらしない肉茎と球を捻り潰す勢いで尻に敷いて腰を振る。挙句は射精もしていないのに本番料金をふんだくるという非道なやり口で彼らをカモにするのだが、セックス嫌いな性分なので基本商売をしたがらない。だいたいからしていかに半ボケの高齢者であってもそう何度も同じ女に同じ手口で引っかかったりはしない。ということは当然家にお金が入ってくるわけもなくだから勇気の家は寒村の中でもずば抜けて貧しい。寒村の定義にあるようにひと気のない村なので、男も少なく、居ても老人ばかりでそもそもが商売として成立しにくい事業を起こしている母と共に暮らす勇気は、飢えていた。飢えて脳に血が巡らなくなった勇気は空き地の真ん中が自分の家に思えて、しかも4面をちゃんと壁に囲まれた豪邸の様に思えて、そこにごろりと寝ころんだ。
寝ころんだ勇気に落ちる雪は最初のうち彼の体温で熔けたが所詮水なのでそれは次第に勇気の肉体から熱を奪い取っていってそうなるともう落ちる雪は融けずに氷のまま堆積していく。
しんしん。
勇気の肉体を覆っていく。
しんしんと雪は降りつもる。
ただ勇気の上に。
…to be continued