官僚がまだまだ知らない「2対1ルール」の真髄。民間主役の規制緩和へ!
N党議員への参院法制局の回答から読み解く
中田 智之(歯学博士/医療行政アナリスト)
規制改革の「2対1ルール」法制化をめざすNHK党 浜田議員に参院法制局が回答
回答は極めて初歩的で、官僚組織全体としては認知が不十分なのが実態
法制局からの投げかけに答える形で、制度の主旨を本稿で解説
アメリカ・イギリス・カナダ等先進国で強い実効力を示した、中小企業支援の規制緩和政策でもある「2対1ルール」。昨年12月、NHK党 浜田聡参議院議員が法制化に向けて働きかけたものへ、参議院法制局からの回答が公開されました。
官僚が知らない「2対1ルール」
同制度は維新 柳ケ瀬参議院議員も2020年に参議院総務委員会で取り上げ、日本商工会議所からも2021年秋に同様の政策提言がなされるなど、政官民の政策通の人たちの間では急速に認知が広まっています。
しかし参議院法制局からの回答は極めて初歩的なもので、官僚組織全体としては認知が十分に広まっていないことを端的に示しています。同制度に関する調査は限定的ながら総務省・内閣府で行われてきましたが、それらに触れられることはありませんでした。
一方でこれらは初めて「2対1ルール」を耳にした人が気になる普遍的な論点でもあります。今回は法制局から投げかけられた疑問に答える形で制度の主旨を解説したいと思います(以下、引用部分は法制局の回答文より)。
現状の規制はどうなっている?
まず規制緩和の現状については総務省行政評価局の示す通り(1)、減少するそぶりはまったくなく、年間少なくとも100項目以上のペースで増加し続けています。ここでいう規制は経済活動に関わるあらゆる省令や告示を含みます。
現状の規制に関する政策評価は省令・告示・通達は対象外(2)ですが、日本において実際に拘束力のある規制の多くがこれら下位法令により運用されていることは、レジ袋有料化(省令)(3)やコロナ下での遠隔医療(事務連絡)等の実例からも明らかです。 現状の規制改革の取組では急速に増加を続ける規制を整理しシンプル化することはできません。特区制度または国家戦略特区制度を用いた農地規制改革は適切な評価を終えた後も、全国展開には至りませんでした。これは特別区制度の原則に反しています(4)。
現行の規制改廃があるのになぜ必要?
2対1ルールは日本商工会議所「規制・制度改革に関する意見」P.5に示される通り、「時代や環境の変化にそぐわなくなった規制の放置を防ぐ仕組みであり、事業者が負担する規制遵守費用の総量を増やさない効果を持つ」という意義を持っています(5)。 同制度は中小企業やスタートアップの支援政策として、行政コストや法的リスクを軽減することを当初の目的と位置付けられ、米国ではこれを社会保障分野にも拡大しました。
トランプ氏による大統領令13771 Sec.4では「規制」の定義を「全ての行政機関からの声明。ただし安全保障と外交、組織運営、指定したものを除く」と、ネガティブリスト形式にしています(7)。努力義務や要請も事業者にとっては「所与のもの」と捉えるので、当然規制に含まれます(7)。
廃止の基準は同 Sec.2(c)において「新しい規制によるコスト増は、2つ以上の既存の規制によるコストを削減することで相殺しなければならない」と規定されます。またSec.3では最終的には省庁単位で廃止と新設のバランスを取るものと規定(7)。 具体的には政府担当部署と関連業界団体という最も現場に詳しい者たちが主体となって廃止する規制をピックアップします。新しい規制は廃止する規制がなければ作成不可。前述の通り規制の総数は増え続けているので、「廃止のための新設」は起こり得ません。 時代に則った新しい規制を作ろうとするたびに、役目を終えた古い規制が整理されていくことになります。
規制を新設するために必要なのは廃止する規制の「数」だけではなく、新設する規制がもたらすコスト増と同量の規制廃止による「コスト減」です。必要であれば1つの規制を新設するために、3つか4つの規制を廃止する必要があるでしょう。 10年以上制度運用してきた英国では現在、新規制の導入によって事業者に新たに課されることとなる追加的コスト1ポンドに対し(One-in)、既存の規制の緩和措置によって削減コストを3ポンド捻出する(Three-out)というOne-in/Three-outへと発展しています(8)。「2対1ルール」は進化し続けている制度です。
規制の改廃で重要な「コスト評価」
そもそも法制局が規制の総数を把握していないと読める回答をしたのは大いに問題があるとおもいますが、論点として重要なのは規制がもたらすコストの算定法です。各省庁は既存の職務や国会対応で既に忙殺、コスト評価のために公務員を増加させるのも本末転倒です。 この問題を解決するヒントは、コスト評価のエビデンスに基づく政策立案(EBPM)は医療保険分野に源流があるということです(9)。
厚生労働省や社会保険庁の役人は医学論文を読み理解することはできても、実際に医学研究をするわけではありません。医学研究の生み出すエビデンスに基づいて医療政策や保険収載が決まるため、大学だけではなく薬剤会社・医療機器メーカー、時には開業医のチームが主役となって論文執筆に関わっています。
この医学研究のフォーマットは研究者だけでなく現場の臨床医から政策決定者まで多くの人が理解し活用できるように整えられており、それは同時に情報公開により不正をチェックすることが可能であることを意味します。新型コロナウィルス感染症に対するイベルメクチンの研究不正を最初に指摘したのは医大生でした(10)。 つまり規制のコスト評価に関して、英国グリーンブック等を参考として全ての省庁・多くの一般市民が理解可能な共通した評価基準をまず作ること(11)。その上で各府省はそれぞれが直面している課題について公表することでエビデンスのニーズを生み出し(Area of Research Interest: ARI)、政策反映を目的とした大学・民間研究者・当事者団体によるエビデンス供給を促進させます(9)。
具体的には新しい規制を求める当事者と所管府省がチームとなって主体的にコスト評価と規制の見直しに関わり、内閣官房行政改革推進本部事務局もしくは総務省行政評価局等でレビュー、第三者機関および一般市民で相互にチェックするという形が見えてきます。 このような誰もが利用可能な政策評価の好循環を、官民の垣根を越え目指すのがよいのではないでしょうか。
■ *本稿の画像はNHK党 浜田参議院議員のご厚意で使用許可を得ており、この場を借りて御礼申し上げます。
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