今冬の電力需給ひっ迫の要因分析
今冬の電力需給ひっ迫に関して、色々議論がされている。このひっ迫の原因は一言で表されるものではなく、複数の要因が複雑に絡んでいる。この要因について、まとめてみた。
本記事は、筆者が頭の整理のためのメモ書きであり、記事としての完成度は低いことはご了承いただきたい。また、適宜追記・修正をすることもある。
再エネ導入量増加によるLNGの運用難化
再エネの導入量が増えたことで、LNGの運用が難しくなってきている。
太陽光などの再エネの増加に伴い、LNG火力は主に調整力として使われている。 天気が悪いときは、太陽光発電の代わりに多く発電し、一方で天気の良い日は、出力を絞る必要がある。
天候により、LNG火力の運転状態は大きく変化する。そして、LNGは気化するため、大量に長期間保存することができず、2週間程度分しか備蓄していない。また、LNGは海外からの輸入であり、調達には1か月以上はかかる。LNGは変動を吸収できるバッファが小さいのに、再エネの大量導入により、消費量が大きく変動する状況である。
これは、LNGの運用が相当難しくなってきている。例えば、太陽光発電の導入量が多い九州電力は去年の決算で、89億円のLNG転売損を計上している。(リンク先020年5月 経営概況説明会参照)
不必要に多く調達すると、損失が発生するが、不足すれば、電力需給がひっ迫し、調達量の見極めが非常に難しくなってきている。
天候の予想外れ
昨年の年末ごろから、1月にかけて、寒波が到来し、かなり気温が低かった。一方で、気象庁の9月の予測では、気温は平年並みか高めという予報になっており(リンク先参照)、厳冬は予測できていなかった。
燃料調達は数か月かかるため、秋ごろには、冬の需給を予測する必要があるが、その予想が外れたことも一因と考えられる。
10年に一度の電力需要
今年は10年に一度のH1需要を超える需要が各エリアで発生している。(リンク先資料4-1 p9参照)
さらに、OCCTOの系統情報サービスから、昨年度と今年度の12月及び1月の総需要を比較したものが以下である。
今年度は昨年度と比べても需要が増えているということが明らかである。
スポット依存の新電力
新電力ではスポットからの調達に依存してるところも多い。以下のリンク先の"資料5 自主的取組・競争状態のモニタリング報告(令和2年7月~9月期)"を参照する。
p42より、新電力のスポット市場からの実質買越し量は約40%である。つまり、新電力の需要の40%はスポットから調達していることとなる。
スポット市場からの調達ということは、前日10時までは供給力を確保していないということになる。発電事業者としても、数か月前に新電力からこれだけの供給力が必要だと伝えられていれば、燃料を確保するが、前日10時に必要な供給力を通知されても、燃料調達は間に合わない。発電事業者のスポット市場への入札量は余りものであり、需要想定が上振れすれば、入札量は減り、スポット市場は高騰する。
LNGサプライチェーンのトラブル
LNGプラントのトラブルやパナマ運河の混雑などにより、LNGの調達が難しくなっていた。詳細はJOGMECのレポートを参照していただきたい。
現在日本の発電量の約4割がLNG火力である。備蓄量も多くなく、サプライチェーンが脆弱であるLNGへの依存が大きいことも需給ひっ迫の一因とも考えらえる。
石油火力の休廃止
石油はLNGに比べると保管が容易であり、国内の備蓄量も多いため、石油火力はいざという時の予備力となる。石油火力は1979年以降新設禁止となっており、老朽化したことと、再エネの増加などによる市場価格の低下により、石油火力の運転時間が減っており、休廃止が進んでいる。JERA(東京・中部)および九州では全機が休廃止している。
石油火力発電所だけでなく、燃料を輸送する内航タンカーなども維持できなくなってきているといわれており、このような需給ひっ迫時に供給できなかったともいえる。
原子力発電所の運転状況
昨年度と今年度の冬に運転してた原子力発電所を比較する
2019年12月~2020年1月に運転した原子力発電所
期間中運転:大飯3,4,玄海3,4,川内1(合計5610MW)
一部期間で停止:高浜3(870MW 1/6より停止),伊方3(890MW 12/26より停止),川内2(890MW 12/27より調整運転開始)
2020年12月~2021年1月に運転した原子力発電所
期間中運転:玄海3(調整運転含む)川内1(合計2070MW)
一部期間で停止:大飯4(1180MW 1/15より調整運転)玄海4(1180MW 12/19より停止)川内2(890MW 12/24より調整運転開始)
2019年度と比較すると、運転していた原子力発電は半分以下であり、その分を火力で補うこととなり、燃料消費を早めたとも考えられる。
kWhの確保の仕組みがない
OCCTOでは、毎年、供給計画の取りまとめにおいて、10年間の需給計画の検証を行っている。
だし、これは、設備容量(kW)しか検証しておらず、燃料調達などのkWhが確保できているかどうか検証していない。また、容量市場により、kWに関しては、国内で必要な容量の確保と、稼働しないかもしれないバックアップ電源にもお金が回る仕組みができているが、kWhに関してはそのような仕組みが全くない。これまでの制度設計において、kWhが不足する事態が想定外であったことも一因である。
旧一電の限界費用玉出し
旧一電の限界費用玉出しに関しては二つのことが考えられる。
スポット市場価格に需給状況が反映されにくい
旧一電は予備力をすべて、燃料費である限界費用でスポット市場に入札しなければならない。そのため、JEPXのスポット市場の約定価格は限界費用か売り札不足によるスパイクの二択しかなく、価格シグナルとして表れにくい。本来であれば、需給に余裕がなくなってこれば、スポット市場の価格が徐々に上昇していくべきである。スポット価格をシグナルとして、各事業者は様々な手を講じていくのが経済原理である。
しかし、旧一電の発電部門は、燃料の残量から、燃料不足の兆しがあったとしても、燃料制約にならない限り、限界費用で入札することとなる。よって、本当に需給がひっ迫し、燃料不足になって初めて、スポット市場の価格がスパイクし、高騰する。スパイクが発生してからでは、各事業者が打てる手が少なく、需給を緩和することができない。
余剰に確保した燃料費を回収できない
旧一電は予備力をすべて燃料費である限界費用でスポット市場に入札している。そのため、需要が想定よりも下振れし、燃料が余った場合、転売して損失が発生しても、それをスポット市場に価格転嫁することができない。よって、発電部門はできるだけ、余剰量を減らすようにする。そのため、今回のように想定よりも需要が上振れすると、燃料不足になる。
電力の安定供給に対する責務を負うものが明確でない
電力自由化前は、安定供給に対する責務はすべて一般電気事業者にあった。そして、安定供給に必要なコストは総括原価方式により回収することができていた。
しかし、自由化後は、旧一電は、他の新電力などと同じ立場であり、国内の電力の安定供給の責務をすべて負う必要はない。規制事業である送配電事業者は、発電所などを保有しておらず、安定供給のためにできることは限られている。
自由化された電力市場においては、安定供給を維持するように制度設計がなされるべきということであるが、まだ制度が発展途上であり、追い付いていないということであると思われる。ただ、責任者が不在というのも、安定供給においては、問題であるようにも感じる。
まとめ
今冬の需給ひっ迫に関して、筆者が思う要因を色々列挙した。電力事業制度におけるいろいろな問題が複合して、今回の需給ひっ迫が発生したと考える。多くの有識者たちが、需給ひっ迫について述べているが、ある一面を切り取って、原因を断定するのは間違っている。
今後、国の審議会やタスクフォースにおいては、拙速に議論を進めるのでなく、要因を一つ一つ紐解きながら、現在の電力事業制度の課題を整理していただき、改善していただきたいと思う。