電力系統の慣性とは part2 -複数の発電機の負荷分担-

以前、電力系統の慣性について解説した記事を掲載した。今回はこの記事の続きである。

前回は、発電機1台と負荷の単純な系統のモデルでの発電機の応動を解説した。今回は、発電機が複数台となった場合の応動について解析し、発電機間の負荷分担や慣性について解説する。

本記事では、筆者の力不足により、交流回路理論(フェーザ)を用いた説明となり、大学レベルの電気工学の知識があることを前提する。

検討する系統モデル

2台の発電機と負荷で構成された以下のような、単純なモデルを想定する。

回路図

発電機は内部誘起電圧EとリアクタンスXでモデル化し、負荷端電圧をVLとし、電流は図のとおりとする。発電機のリアクタンスは、G1がG2の2倍とする。

負荷投入前・負荷投入直後の負荷分担

負荷投入時の応答を解析する。まず、負荷投入前の負荷0MWの時は電流が流れておらず、E1,E2,VLすべて等しいので、フェーザ図は次のようになる。(本記事のフェーザ図は概略図であり、正確ではないことに注意いただきたい。)

画像2

ここで、負荷投入直後の応答を考える。発電機の内部誘起電圧Eは発電機の回転子の界磁巻線によって誘起されている。界磁巻線の回転数はすぐには変化せず、AVRも応答しないので、内部誘起電圧Eは変化しない。負荷によって、電流が流れるので、フェーザ図で表すと次のようになる。

画像3

ここで確認すべきことは、2点である。

発電機の負荷分担

フェーザ図からわかるように、発電機1の電流I1は発電機2の電流I2の半分である。これは、発電機1のリアクタンスが発電機2の2倍だからである。負荷変動直後の負荷分担は、発電機のリアクタンスの逆数比に比例する。これは、並列回路において、インピーダンスが小さい回路ほど、大きな電流が流れることと同じである。

つまり、負荷変動直後の負荷分担は、発電機のリアクタンスによって決まる。ここで、発電機のリアクタンスは、過渡リアクタンスと考えればよい。

負荷端電圧の位相跳躍

負荷端電圧VLは、負荷投入前と比べると、位相がズレており、位相跳躍が発生している。実際には、瞬時で位相跳躍が発生するわけではなく、負荷投入直後(1サイクル程度)は電圧が歪み、定常状態になったときには、位相が跳躍している。負荷端電圧で周波数を検出していると、これにより周波数が飛ぶことがあるので、注意が必要である。

負荷変動後(慣性の応動)の負荷分担

先ほど、発電機のインピーダンスにより発電機2の方が大きな電力を出力した。前回の記事で述べたように、この時、発電機の回転子の運動エネルギーを放出しており、発電機の回転数が低下する。発電機1と2で同程度の慣性モーメントとすると、発電機2の方が大きなエネルギーを放出していることとなり、発電機2の方が、回転子の減速が早い。回転子の位置が内部誘起電圧Eの位相であることから、E2の位相がE1より遅れていき、次の図のようになる。

画像4

ここで、E2の位相が遅れることで、VLに近づく。これにより、発電機2に流れる電流I2が小さくなる。よって、発電機2の負荷分担量が減り、発電機1が多く負荷分担するようになる。以下のような現象が発生することになるのである。

発電機2の負荷分担量が大きい⇒発電機2の方が減速⇒負荷端電圧との位相が小さくなる⇒発電機2の出力電力が小さくなり、発電機1の負荷分担量が大きくなる⇒今度は、発電機1の方が減速⇒負荷端電圧との位相差が・・・・・・(以下繰り返し)

よって、負荷分担が一方に偏っても、バランスするような仕組みが備わっていることが確認できる。また、発電機の回転数も、一方のみが早く減速するわけではなく、同じように減速する。発電機2の方が早く減速するとしたが、発電機1と2の回転数を比較しても、ほぼ誤差の範囲である。よって、同期発電機がすべてほぼ同じ周波数で回転することとなり、同期発電機の同期化力によるものである。これについては別途記事にまとめたい。

負荷変動後(ガバナ)の負荷分担

周波数が低下すると、それを検知したガバナは原動機の出力を増やすように動作する。ガバナは、周波数が下がると、変化量に比例して出力を増やすように制御されており、これをドループ制御もしくはガバナフリーと呼ばれている。

このドループ制御により、原動機の出力が増えることで、負荷と原動機の出力がバランスし、系統の周波数があるところに収束し、系統の擾乱が収まることとなる。

負荷変動後の負荷分担(まとめ)

負荷変動後の負荷分担をまとめると、次のようになる。

負荷変動直後(リアクタンスによる分担)

負荷変動直後は、電気回路によって、流れる電流が決まり、リアクタンスが小さい発電機ほど、大きな電力を出力することとなる。実際の同期発電機の回路定数にはリアクタンスが複数あるが、過渡リアクタンスで考えればよい。

負荷変動後(慣性による分担)

負荷変動後は、発電機の回転子の運動エネルギーを放出する。よって、発電機の回転子が減速する。負荷分担量が大きい発電機は、減速が早く、位相差が小さくなり、出力電力が減り、もう一方の発電機の分担が大きくなる。この仕組みにより、発電機の負荷分担は一方に偏らず、バランスし、回転数は同期して、ほぼ同じとなる。

負荷変動後(ガバナによる分担)

周波数が下がると、ガバナが応答し、原動機の出力を上げる。これにより、原動機の出力と負荷がバランスし、周波数があるところで安定となる。

発電電力の応答

各発電機の発電電力の応答を、イメージ図で表すと次のようになる。

電力

実際には、慣性モーメントやガバナの応答性等、様々な要因により複雑に応答するため、シミュレーションで評価する必要がある。

まとめ

前回は、発電機1台と負荷の単純な系統のモデルでの発電機の応動を解説した。今回は、発電機が2台に拡張し、発電機間の負荷分担や慣性について解説した。

3台以上となったり、より正確な応動を解析するためには、電力系統シミュレーションを行う必要がある。ただし、基本的な考え方は2台の時と同じであり、イメージを持っておくことで、シミュレーションを行う際に、モデルや解析結果の妥当性の評価等ができるようになり、シミュレーションのクオリティを上げることが可能となる。

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