人形浄瑠璃文楽の芸能団体としての立ち位置の謎をひもとく。
文楽と通称呼ばれることの多い私たちですが、芸能としての名称は
人形浄瑠璃
です。
こんにちは。
人形浄瑠璃文楽で太夫をしております、豊竹咲寿太夫です。
ライトな記事はブログ https://ameblo.jp/sakiju/
に、noteにはなるべく深いところを探っていく記事をお届けしようと思っております。
興行主とは
私たちは世襲制ではありませんので、血縁ではなく、弟子筋弟子筋で歴史がずっと繋がっているのですが、その大元をたどると、江戸時代元禄期に遡ります。
もちろん、その当時に人形浄瑠璃という芸能はすでに存在していました。
ですが、その人形浄瑠璃という芸能を、歴史上これ以上ないくらいに盛り立てた人物が2人いるのです。
ひとりが近松門左衛門。
もうひとりが竹本義太夫。
ふたりとも同時代の人です。
近松門左衛門が名脚本を書き、竹本義太夫が名芝居をし、人形浄瑠璃が大流行りをしたのです。
さて、私たち文楽の演者はその竹本義太夫が作った竹本座、そしてその弟子が作った豊竹座に所属していた演者の弟子筋になります。
このように、竹本義太夫を源流としていますが、演者が変わらなくても座元(興行主)がかわると、〇〇座と名前が変わることがあります。
幕府の終焉と危機
さて、歴史的にみれば、現在人形浄瑠璃の集客人数は劇場という立派な建物があるおかげでコロナ直前あたりがもっとも多かったと推測されます。
そんな文楽ですが、何度も衰退の憂き目をみてきました。
江戸末期から明治にかけては、マンネリ化した新作演目というふうに表現されることが多く、おそらくはその時代が人形浄瑠璃という芸能がとうとうクラシックの枠へゆるやかに移行して行ったのだと考えられるのですが、とはいえ興行を継続的に成功させなければ、そもそも芸能自体が滅んでしまいます。
琉球の首里城があっという間に消失してしまった時のショックを、熊本城が地震で傾いてしまったショックを皆さんはその肌に感じたのではないでしょうか。
修復をほどこしても、どうしても以前のものとまったく同じにならないのです。こんなに悔しいことがあるでしょうか。
文化遺産とは、過去のものではなく、今なお引き継いでいるからこそ、今の人と昔の人が繋がっている証明であるからこそ、人々はそこに惹かれ、また未来の子供たちに引き継ぐのです。
有形の文化遺産ではこのように、まだ修復をすることができますが、無形の文化遺産である私たち「芸能」という分野は途切れたが最後、もはやそれは過去のものとなってしまいます。
江戸末期から明治にかけてまさしくそのような状況でした。
幕府がなくなり、世間が様変わりしていくなか、たとえば幕府が建てた櫓をかかげた劇場(芝居小屋)は無くなっていき、そのそばにあった芝居茶屋も無くなっていき、芝居をお見せする場所として神社仏閣の一画を借りるなどするも、それすら禁止となるなど、人形浄瑠璃のみならず文明開化・廃藩置県前から存在する多くの芸能は滅亡の危機をどうのりこえようかの壁にぶち当たっていたのです。
ざんぎり頭になったため、丁髷頭の芸能は「日常」をうつす鏡ではなくならざるを得なくなってしまったのです。
さて、そんな人形浄瑠璃の竹本義太夫の弟子筋の一派の窮地を救ったのが、淡路の人形浄瑠璃から大阪へやってきた植村文楽軒という人でした。
彼と彼の子供たちは興行の面で人形浄瑠璃を復興させていきます。
つまり、興行主として大阪の人形浄瑠璃を再び立ち上げることに成功したのです。
そうして、植村文楽軒の名前を冠した、文楽座が誕生したのです。
芸能事務所が、ない!?
おもしろいことに、当時から戦前にかけて演者の人数は非常に数多く存在しました。
観客は少なくても「演りたい」人は多かったのです。
そうして時代は移り、文楽軒四世代にわたる興行の後、現代、文楽座は座元をおかず、つまり現代に相当するところの芸能事務所をもたず、現在にいたります。
よく勘違いを受けるのですが、私たち文楽座の演者は国立劇場に所属している公務員だとお思いになる方が多いようです。
現在、2週間から3週間、大阪と東京で行なっている所謂「本公演」は主催国立文楽劇場・国立劇場、私たち文楽座は演者の集まりで、国立劇場さんは事務所ないし所属先というわけではありません。
では文楽協会という団体は何かと申しますと、こちらは主に文楽の地方公演や学校へ赴いて芸術体験する公演などを企画してくださる団体となります。
ですから、文楽協会もいわゆる芸能事務所というわけではない、というところが、たとえば歌舞伎俳優の方々が松竹に所属されているところとの大きな違いになり、舞台を中心に生きていることの大きな要因となります。
ちなみに私の場合ですが、私は自身のホームページからお仕事などのご依頼をしていただける(contact)ように調整いたしております。
ホームページ
club.cotobuki
現在コロナ禍におきまして、本公演にも影響がでにくいよう、リモートでのレクチャーなどもお引き受けさせていただいております。
今後ともよろしくおねがいいたします。
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