フランス・ユマニテ祭2024年Day2 仏左翼のスター続々登場編
ユマニテ祭1日目の様子を綴った前回の続き。
初日の様子はこちらから→
前回の最後で匂わせをしたが、土曜日のDay2はなんせ登壇者が豪華で、このフェスの1番の目玉の日と言っていいだろう。キャンプ勢は特に3日目になると過度のアルコール摂取と寝不足でゲッソリしてしまうので、1番盛り上がるのはやはりこの2日目である。
私は正午ぴったりに現地入りをした。昨日入場済みなので、腕にはまだリストバンドを装着したままだ。これでスムーズに入ることができる。
入場するとすぐに、テーブルで朝食セットを食べている人たちが大勢いた。キャンプ場のすぐ横のここは朝食を提供しているスタンドがあり、
・コーヒー(またはティー)
・パン
・バター
・自家製ジャム
・フルーツジュース
という伝統的フランスの朝食セットをたった5€で食べられるそうだ。
この朝食を提供しているのがフランスの政治家、フランソワ・リュファンが2017年に創立したフランス北部のピカルディ地方を基盤とした政党『立ち上がれ、ピカルディ』である。
このリュファンという男は(実はマクロン大統領の元同級生) もともとメランション率いる『不服従のフランス』の一員であり有力な後継者候補と目されていたが、彼自身は支持層にいわゆる「グローバル資本主義に取り残された地方の伝統的フランス人労働者」が多いこともあり、若者や(都会的な?)移民ルーツの労働者からの支持が高い『不服従のフランス』との方向性との違いから今夏同党を離党したばかり。
しかもこのフェスの直前に出演したTV番組で言っても元同志である『不服従のフランス』の若者・都市郊外を集中的に狙った選挙戦略を「暴露」するような形で批判していたばかりだったので、やれ裏切り者だの日和見主義だの批判の渦中にあったこのタイミングでのフェス参加であった。話題の人物ということもあり(?)多くの人が集まっていた。
そしてそこからほど近くにある、このリュファンの元同志達である『不服従のフランス』のスタンドであるが、こちらも1日中イベントを開催しており、着いた時にはこちらの5人が『どうやってマクロンを屈服させるのか』というテーマでトークを行っていた。
中央にいるのは元全国高校生連盟の代表で、まだ大学生だった当時若干22歳(2022年当時) にして国会議員に選出されたルイ・ボヤーくん (ちなみに彼のTiktok のフォロワーは100万人を超えている) 、そして1番右にいるのは全国高校生組合代表のマネス・ナデルくん(恐るべし17歳) である。ちなみにマネス君の雄弁っぷりを世に知らしめた演説はこちらのリンクから日本語字幕付きで見れるよ。
アンジェラ・ディヴィス降臨
さて、今回のユマニテ祭の大目玉といえばこのアンジェラ・ディヴィスの参加である。アメリカ人の彼女がこれ以前にユマニテ祭に参加したのは1973年と1991年のことだそうで、今回かれこれ33年ぶりの参加であった。
多くの人が講演会場に押し寄せ、彼女のことば一言一言にじっと耳を傾けていた。
「私はいまでも共産主義者です」ーーフェミニズムは反資本主義・反人種主義でなければならないこと。それは男性と女性の平等だけ目指すブルジョワ・フェミニズムではないこと。トランプには投票しないが、カマラ・ハリスよりも過激な政治的関係を作ることのほうが重要だということ。若者がパレスチナ解放運動に参加していることに希望を感じていること。反ユダヤ主義と反シオニズムが運動を混乱させるため意図的に使われていること。それでも彼女の知っているユダヤ系の進歩主義者はみなホロコーストを繰り返すまいと率先してガザ連帯運動を率いていることーー。
ちなみに動画配信もあるので、この講演の全貌はここからみることができる↘️
大勢の人が詰めかけていたので、会場には人が入り切らず、会場外に設置された大きなスクリーンの中継の前でも多くの人がアンジェラ・ディヴィスを熱い視線で見つめていたのが印象的だった。
新・人民戦線リーダーズ登場!
アンジェラ・ディヴィスに続いて登場したのは、この夏突如マクロンによって発表された国民議会の解散選挙にて、あらゆる事前世論調査の予想を裏切って見事最多議席を獲得した(絶対多数は取れなかったが) 左翼連合、新・人民戦線(以下NFP) を構成する4党ー社会党・エコロジー党・不服従のフランス、共産党の各党首ーーオリヴィエ・フォール、マリーヌ・トンドリエ、マニュエル・ボンバール、ファビアン・ルーセルである。
それぞれの口から選挙の総括、そしてついにマクロン大統領に指名されたフランスの新首相選出の経緯への言及があった。この新首相バルニエは選挙で第4党にすぎなかった右派の共和党出身で、これはマクロンと極右の間の「密約」の結果だということでNFPからの批判が集中している。
ちなみにマクロンの首相選考熟考段階では「中道左派」路線候補の名前もあったが、いずれにせよこの候補はNFPには参画していなかったし、当のNFPの統一首相候補は最初からマクロンの指名に擦りすらしていなかった。
この4者のトークでよく見えたのは各党の個性や戦略の違いと、一枚岩でないからこその強さである。(これはエコロジー党党首マリーヌが生態系の比喩を用いて散々強調していたことでもある)。一見相容れない極左フィリップ・プトーから中道オランドよりまで広く支持層をカバーできるこのNFPが1つの一貫したプログラムのもとに団結している。この場で2027年の大統領選も左派統一候補を出すことがアナウンスされ、会場は大盛り上がりであった。
パレスチナへの連帯ーイラン・パペ
今回のユマニテ祭ではパレスチナ関連のイベントがたくさんあった。その中でも個人的に注目していたのが、UJFP( 平和のためのフランスユダヤ人連合) というシオニズムに批判的なフランスのユダヤ人団体(アメリカでいうJewish Voice for Peace) のスタンドで行われるイベントだ。
こちらのイベントではあの『パレスチナの民族浄化』の著者でイスラエルの歴史家、イラン・パペが名誉招待されていた。
イラン・パペのスピーチのあと、BDSフランスのメンバーからBDSの目的、やり方、その効果について(日本のボイコット成功例も引用されていた!) 、そして今年3月に結成されたばかりの『国際法遵守のための法学者連盟』のメンバーからはパレスチナーイスラエルを巡る国際法についてのプレゼンがあった。
ちなみに、これは先ほどまでと打って変わってこじんまりとしたテントの中の小さなイベントであり、近くにコンサート会場もあるので各々声を張り上げながらの、かなり一体感のある雰囲気である。こうした何十ものイベントが同時進行で行われているのだ。ちなみにイラン・パペのスピーチ(日本語字幕つき)はこちらから⤵️ おそらく最近のイスラエル国内の動きも踏まえて、非常に大切な呼びかけが含まれているので必見。
不服従のドン!
メランションのミーティング
イラン・パペの言葉を噛み締めたあと駆け足で向かったのは、『不服従のフランス』のテントで行われるメランションのミーティングである。
ジャン=リュック・メランションの名は日本でも多少知られているのではないだろうか。2022年大統領選の左派の統一候補者で、極右マリーヌ・ルペンにあと一歩及ばなかったものの圧倒的なカリスマ性と支持層を抱えている彼は、今回の議会選でも左派の中で1番多く議席を取った『不服従のフランス』の創立者であり、党の精神的父・指導者的存在である。
ただこの一強感と国政選挙でも全く揺らがないパレスチナへの連帯姿勢で大手のメディアからは最近悪魔的扱いをされている彼だが、やはり現場で感じる肌感としては彼の周りが1番盛り上がっている。そして圧倒的に若者が多いのも特徴だ。
着いた時は会場から人が溢れていて全く何も見えないのにコンサート会場の声漏れだけで喜ぶオタクのような状態であった(後ろの男の子がジャン=リュック愛してる!と叫んでいた) が、じりじりと接近し、なんとか姿が見えるところまで来れた。
パレスチナ連帯、反レイシズム、フェミニズム、第五共和制批判.....複数の異なるテーマを行き来しながら全く言葉が詰まることなく大きな身振り手振りで全く観客を飽きさせることなく聴かせることたっぷり2時間、当然台本などないのだが、いつ「切り取り」されても動画が成立する、相変わらず圧巻の話術である。こうして話を聞いていると彼の前世は落語家だったんじゃないかと思う。
*ちなみにこういう演説の「切り取り」は即座に彼のTwitterほかSNSに投稿される。
ミーティングが終わると、みんなで国歌マルセイエーズを合唱....で終わりかと思ったところに『インターナショナル』も流れてきた!選挙対策ではとうてい歌えないこれを堂々と歌える、これぞユマニテ祭の醍醐味である。
やっぱりフェス!
ここまで日本語で書くにはちょっとニッチなフランス左翼事情も少し綴ってしまったが、これはあくまでフェスなので、楽しむことが1番大切なことである。共産党の各支部がスタンドを出しているので、美味しいフランスの各地方の特産品も安く食べることができるのも嬉しい。
そしてフェスといえば、当然音楽が欠かせない。複数あるステージで1日中豪華歌手がコンサートをしており、傾向としてはマルセイユ出身のラッパー(フレンチラップあるある) が多いが、50€前後のチケット代のもとを一瞬でとれる大人気歌手ばかりだ。
この上の画像はBEN plg という新進気鋭の社会派?ラッパーのコンサートなのだが、よく見ると観客側でCGT(フランスの最大手労働組合の旗)が揚げられているのがすごい。なかなか見れない景色だと思う。
番外編
その他いろいろ。
本当に楽しくて1日があっという間だった。ただ1つ困ることがあるとすればトイレ問題である。数はかなり多いし、こういったフェス会場にしてはかなり清潔でちゃんとトイレットペーパーもあるのだが、いかんせん人が多いので並ぶ並ぶ。最長30分くらい列に並ぶことを覚悟したほうがいい。男子はささっと立ちションできるスペースがあるので積極的にそちらに行ってもらいたい。ここでは自分の尿意耐久時間を計算して、逆算して並ぶことが必要だ。ビールの飲み過ぎ注意!🍺
これだけ盛りだくさんで、チケットは50€前後で3日間これだけ楽しめるのだから、来年参加できたらそろそろテントでキャンプもありだなと思った時代である。その際はまたレポをおとどけしたい。
では、また来年〜❗️
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?