【全文無料公開】税理士が知らない第3の節税術-企業型確定拠出年金をつかって節税・社会保険料を削減する方法
はじめに 会社と社長のお金を増やし、社員満足度を高める最後の方法
これほど社長と会社のお金を増やしにくい時代もないでしょう。
結果として恩恵を受けた企業もありますが、2020年に突如として発生した新型コロナウィルス感染症騒動、ロシアによるウクライナ侵攻。これらによって急激に進んだ円安、物価高騰。加えてさらなる増税議論。あなたの会社も何かしらの影響を受けているはずです。
会社を経営してお金を残すには、業績を伸ばし、適切な節税を行い、経営者自身も資産形成をする。これが王道です。しかしながら、2019年に起きた節税保険の大幅見直しであるいわゆる「バレンタインショック」により、これまでスタンダードだった生命保険による節税も決して簡単ではなくなりました。
そしてより一層深刻なっている人材不足。少子高齢化、人口減少の煽りを受けてまず人手が足りない。また、労務管理をひとつ間違えば「ハラスメントだ」と言われ、だましだましの企業経営では人材が集まらなくなり、本当の意味で良い会社にならなければ、若い人材どころか人材そのものが取れず、また維持も難しくなっていくことが見込まれます。
では、もう打つ手はないのか?
もちろん、秘策はあります。それが本書でご紹介する「企業型確定拠出年金」です。
わかりやすくいえば、これは「第3の節税術」であり、そして「若く優秀な人材を集める」ための方法といえます。制度自体は決して新しくありませんが、多くの企業がこの企業型確定拠出年金の魅力とメリットに気づいておらず、損をしているのです。
私はこれまで、税理士として1000社を超える企業との顧問契約を締結してきました。私の事務所自体でもこの企業型確定拠出年金を活用していますし、大多数のクライアントがこの企業型確定拠出年金を活用して、資産をつくり、そして良い人材を集めています。
「そんな魔法のような方法があるの?」
それが、あるのです。本書を読み終えたとき、あなたはきっと企業型確定拠出年金に加入したくなっていることでしょう。ぜひ、本書の内容をお役立て頂ければと思います。
さきがけ税理士法人
代表税理士 黒川明
第1章 なぜ、メリットしかない企業型確定拠出年金に中小企業は加入しないのか?
なぜ、企業型確定拠出年金が「第3の節税術」と呼べるのか?
まずはお金を残すという点について解説しておきましょう。過去の「節税」と呼ぶものは、ただ経費をいたずらに使い、利益を圧縮して納税額を減らす。あるいは度を超えるとあえて赤字決算にしてしまい、法人税の納税額を0円にするという雑なものでした。結果として、現金が不足し経営に悪影響を及ぼしたり、あるいは赤字決算のために融資を断られたりなどの結果を招いてしまっていました。これを原始的なという意味で、「第1の節税」と呼びます。
次に生まれたのが生命保険による節税です。後述するいわゆる「バレンタインショック」によってこれが困難になるわけですが、法人税の課税対象となる利益で生命保険に加入し、利益を圧縮してやはり法人税を減少させる方法です。そして簡単にいえば、これは保険料を毎年支払い続け、最終的には退職金として経営者が受け取り、利益を確保する方法です。これも主流ではありましたが、全額経費(全損といいます)になる生命保険も徐々になくなり、旨味がなくなってしまいました。また、消費税が段階的に増税され、消費税を納めるために現預金が必要になったこともひとつの影響にあり、徐々に生命保険による節税も簡単なものではなくなりました。この生命保険による節税を、「第2の節税」と呼ぶことにします。
こうした八方塞がりのように見える中、「第3の節税」と言えるのが「企業型確定拠出年金」なのです。言葉こそ「年金」ですが、誤解を恐れずにいえばこれは生命保険に変わる全損の積み立てです。つまり、会社の利益の中から適切に資産形成ができるのです。詳しい制度については後述しますが、ほかにもメリットは多数あります。
例えば、従業員が加入した場合には、所得税や住民税の減税があり、また社会保険料の計算からも除外され、社会保険料の軽減も図れます。また、一般的に資産運用で得た利益は原則として課税対象になりますが、企業型確定拠出年金の場合は非課税です。そして、年金の受け取り時にも税優遇措置が受けられます。一時金であれば、退職所得控除、年金であれば公的年金等控除が受けられ、税を軽減することができるのです。
いまはまだ細かい点まで理解する必要はありません。経営者であるあなたにとっても、従業員にとっても資産形成的にメリットしかないのです。「そんなことしなくても、会社を経営していればお金はどうにでもなるのでは…」という若い経営者もいます。しかし、いまから始めなければ、損しかないのです。
生命保険による節税の限界とともに、次項ではいまやるべき理由を解説していきます。
主流だった保険による節税の限界といますぐ始めるべき理由
前述のとおり、これまでは生命保険による節税施策は王道中の王道と言われる手法でした。過去には、保険料が全損になる時代もあり、経営者の生命保険加入市場は伸びに伸びたわけですが、これを見逃さないのが国税庁です。国税庁は税収を増やすことも仕事ですから、こうした節税施策を見逃すわけもなく、国税庁が規制を強くすれば、生命保険会社はまたその網の目をかいくぐるように新しい保険を出すというような、いわゆるいたちごっこが続いてきた背景もあります。
ところが、このいたちごっこに一定の終止符を打ったのが、前出の「バレンタインショック」です。これは、2019年に国税庁から「法人向けの定期保険など一部保険商品について、販売を停止する」と発表があり、解約返戻率が50%以上となる商品の課税方法を見直されることになりました。これによって、節税保険と呼ばれていたような保険商品は、実質的に販売中止に追い込まれてしまったのです。
つまり、いまはこれまで王道と言われた生命保険による節税が難しくなっています。もちろん、生命保険による節税が不可能になったわけではなく、一部の保険商品ではそれを可能にするものもありますが、実質的には終了というのが専門家の意見になります。
そこでやはり注目すべきが企業型確定拠出年金。基本的なロジックは同じです。出た利益を保険ではなく、企業型確定拠出年金の掛け金で実現します。この掛け金は全損。つまり、現在の利益を経費として未来に積み立てることができるわけです。
従業員はもちろんのこと、経営者自身も加入できます。そして、これらは「積み立て」です。積み立てならば、当然早い段階で始めた方が有利です。企業型確定拠出年金は生命保険のように自由に保険料が決められるわけではなく、上限があります。掛金は月額3000円から55000円の範囲内ですので、いち早く始めた人に大きな成果が表れるわけです。
もちろん、始めるのに遅すぎることはありません。企業型確定拠出年金の内容については、第2章でより詳しく解説しますが、運用の仕方によっては運用益も出すことができますし、少なくとも生命保険による節税が厳しくなったいま、取り扱わない理由はないのです。
これが「第3の節税」と呼ぶ所以となります。
次項では、こうした「積み立て」以外の特性について、解説していきます。
企業型確定拠出年金は、節税・社会保険料削減を実現できる
簡単に言ってしまえば、企業型確定拠出年金は「年金」の名前のとおり、先々のための「積み立て」です。役員報酬や給与の中からこうした貯金をすることももちろん可能ですが、単なる預貯金とは違って企業型確定拠出年金に加入するメリットがあります。それが、社会保険料や所得税、住民税の軽減です。
わかりやすいので、まずは従業員の例を見てみましょう。月給が月額250,000円の従業員がいたとしましょう。通常は、この250,000円という金額に社会保険料や所得税、住民税などがかかります。かなり大雑把な計算になりますが、この従業員が25歳-40歳の年齢で特に控除がなければ、ひと月あたりの社会保険料等の計算は下記のとおりとなります。
・厚生年金…23,790円/・健康保険…13,000円/・雇用保険…1,500円/所得税…5,200円/・住民税…9,883円…合計=53,373円
これに対して、企業型確定拠出年金に毎月15,000円加入したとします。そうすると、250,000円から15,000円を差し引き、235,000円の部分に課税されます。そうすると、下記のような計算になるのです。
・厚生年金…21,960円/・健康保険…12,000円/・雇用保険…1,410円/所得税…4,770円/・住民税…8,858円…合計=48,998円
と、このように社会保険料や所得税などが下がります。掛け金として支払っている分、手取りが減ることは否めませんが、社会保険料が下がれば当然会社負担分も減るわけで、従業員数が多ければ大きな削減が期待です。手取りが減ったとしても、それは一時的なもので最終的には受け取れるお金です。そういう意味では、まさに「年金」の文字のごとく節税をしながら会社負担分を減少させ、退職金までつくれるわけです。
役員報酬の場合は、月額の役員報酬に加算するかたちで掛け金を設定することもできます。例えば、月額100万円の役員報酬ならば、最大値の55,000円を掛け金とするなら、課税対象は100万円。これを単なる昇給的に105万5千円にすると、当然社会保険料や所得税は上がります。役員の場合は、このように月額の役員報酬に足すかたちなので、よりやらない理由がないといえるのです。
加えて、詳しくは図解を参照してほしいのですが、企業型確定拠出年金を使えば内部留保よりも多くの退職金を残すことができます。例えば、内部留保として5,000万円の現預金をつくるためには、税引前利益として7,500万円は必要です。つまり、法人税を2,500万円ほど支払って初めて5,000万円の利益が残り、退職金原資となります。
これに対して、企業型確定拠出年金で退職金をつくるとなれば、複利の恩恵を受けることができ、例えば図の通り55,000円を毎月積み立てれば、25年後には1,650万円の積み立てが5,000万円まで増え、退職金原資となります。後述する退職金控除を使用すれば、役員報酬を得るよりも手取り分は極めて大きく、将来に資産を残すことができるわけです。
以上の通り、先々の蓄えを地道につくることができ、さらに節税になる。こんな理想的な方法なのに、活用されてこなかったのです。
人材確保のためにも、企業型確定拠出年金は必ず必要になる
毎月の掛け金が全額経費になり、そして社会保険料の削減、所得税等の節税になる。もちろん、細かい点を指摘していくと各種のルール等やメリット・デメリットが出てきますが、まずはこれらのメリットを聞けば、あなたも自身や自社で企業型確定拠出年金に取り組みたくなってくるはずです。
そして、これは私個人の考えですが、今後は企業型確定拠出年金は人材確保のためには「ベター」ではなく「マスト」になってくると私は考えています。
冒頭でもお伝えしましたが、いま本当に先がわからない世の中です。パンデミックや震災、不景気や物価変動など、様々な不安がありますが、やはりそういった不安を打ち消してくれるのが資産であり、お金です。企業型確定拠出年金はその内容を聞けば、従業員にとっても会社にとっても、先々に資産を残せることになり、メリットしかないと感じるでしょう。もし、今後「優良企業は、企業型確定拠出年金に加入している」という定義が付けられたら、企業型確定拠出年金に入っていないことで、応募者が減少してしまう可能性があります。
いや、可能性があるだけでなく、私はその可能性が高いと考えています。それは、2022年4月から、高等学校の家庭科等で投資とお金の授業がスタートしているからです。金融庁は教材として「高校生のための金融リテラシー講座」などを作成し、すでに高校生もお金の勉強を始めているのです。
単純計算で、2022年お金の授業が始まったわけですから、そういったお金のリテラシーのある高校生が高卒で企業に入社するのが最短で2025年。同じく大卒で就職するとすれば、2029年。このときには、新卒の求職者が選ぶ良い企業の条件の中に「企業が企業型確定拠出年金に加入していること」を条件に入れている可能性があります。
別の言い方をすれば、これから企業型確定拠出年金未加入の会社はかつての「社会保険未加入企業」と同じ印象になりかねないということです。そのため、今後は「選択」というよりは、「できるだけ早いタイミングで加入する」というのがベストでしょう。
社会保険と同じで、入るのが早ければ早いほど、資産形成や今後の備えとして十分なものになっていきます。やはり、メリットやその性質を考えるとできるだけ早く加入した方が良いと言えるでしょう。
いますぐ、企業型確定拠出年金をはじめよう
第1章では、あえて企業型確定拠出年金の魅力について重点的に言及してきました。制度や仕組みなどの細かい点については、第2章で解説していきます。
第一章の要点は、企業型確定拠出年金はこれから企業の節税対策に必要な施策であること。私はもう企業型確定拠出年金は、前述のとおり「第3の節税」と呼んでも過言ではないと考えています。生命保険による節税が困難になったいま、利益を先延ばしにするという意味では、かけられる金額の違いはありますが、企業型確定拠出年金も生命保険による節税もほとんど変わりません。ぜひ積極的に活用してほしいと思います。
加えて、重要なのはそういった節税の視点もそうなのですが、やはり今後の人材確保について必要な施策であるということです。国内の人口は必ず減少します。株式会社第一生命経済研究所によれば、2022年には日本の人口は約77.9万人も減少したというデータが出ています。
「約80万人?日本の人口は1億2000万人以上いるのだから、それほど恐れることではないのでは?」
もしかしたらそういった意見もあるのかもしれません。しかし、日本は人口減少だけでなく、少子高齢化社会でもあります。つまり、働き手はどんどんいなくなるのです。人口があっても働き手がいなければ、当然税収も下がる。そうなれば、企業の負担はもっと増えていきます。将来の若い人材確保のためにも、これから訪れる時代を力強く生き抜くためにも、「備え」が必要なときがやってきているのです。
私はこれまで税理士として15年。1000社以上のクライアントの財務状況を見てきました。途中、リーマンショックや東日本大震災、そして新型コロナウィルス感染症など未曾有の出来事に耐えうることができた企業は、やはりきちんと備えている会社です。企業型確定拠出年金は、あなたの会社がこれからの時代を生き抜くためにできる、いま始めるべき施策と断言できます。
第2章ではよりあなたの企業が活用できるよう、基本的な仕組みから事業承継問題の解決など、企業型確定拠出年金でできることやそのメリットをまとめてあります。
ぜひ、読み進めてください。
第2章 これだけ得する「企業型確定拠出年金」の真実とは?
なぜ、いま企業型確定拠出年金なのか?
あらためて、なぜいま企業型確定拠出年金なのか?という前提を伝えておきます。現代が様々な不安要素に満ちた時代だということはすでにお伝えしましたが、いまから企業型確定拠出年金によって老後資産をつくらなければならない理由がいくつかあります。
まずは、厚生労働省が言う「人生100年時代」のように、日本人の平均寿命は伸び続け、2040年には男性83.27歳、女性にいたっては89.63歳と他国の類を見ない長寿国となっています。もちろん、健康的に寿命が伸びることは良いことだと言えますが、その分「老後が長く」なっているのです。「老後資産2000万円問題」が一時話題になったように、65歳を超えると収入よりも支出が高まります。そのため、これまでの資産では足りなくなるという問題です。しかも、いまは物価の高騰や電気代の上昇などにより、2000万円でも足りなくなる見通しもあります。
これに加え、社会保険料の上昇に寄って、従業員も役員も手取りは減り、また消費税等の増税によってより生活は厳しくなってきています。「70歳まで働く時代」と言われても、再雇用等では以前のような収入が見込めない場合も多く、単純に言えば多くの人が老後資産に困るのです。
年金制度が確立した1940年代-1950年代の平均寿命は60歳。定年も55歳が一般的でした。つまり、勤め上げれば良くも悪くもそれでゴールが見えたわけです。特に当時の雇用形態のほとんどが終身雇用で雇用も安定しており、また退職金なども高額でした。バブルの影響もありましたが、そのバブルも消え、その後の不景気は説明するまでもないでしょう。
つまり、これは従業員だけでなく経営者であるあなたにも言えます。いま、堅調に業績を維持できていたとしても、引退のとき、あるいは将来病気や事故等で働けなくなったときに資産がないのでは、いまの努力は水の泡と消えてしまうわけです。
そこで、企業型確定拠出年金の出番となります。掛け金はすべて会社の経費になり、確定拠出年金で出た運用益は非課税。そして社会保険料や所得税等を抑えながら、老後に向けて資産形成ができる。そして積み立てなので、1日でも早く始めた方が有利。
やはり、いますぐ始めない理由はないのです。
企業型確定拠出年金の基本的な仕組み
では、ここで企業型確定拠出年金の基本的な仕組みをおさえておきましょう。第三章で解説しますが、実際に手続きを進める場合には地方厚生局の承認が必要で、この手続には社会保険労務士の力を活用するのがベストです。そのため、深い知識は不要と言えますが、社労士に依頼するにも最低限の知識はあった方が良いでしょう。
まず、企業型確定拠出年金は国の制度です。確定拠出年金には二種類あり、個人型を「iDeCo」と呼び、本書で解説しているのは企業型。企業型DCとも呼ばれます。掛け金を運営管理機関と呼ばれる機関に支払い、管理してもらうという仕組みです。詳しい仕組みは図解を参照して頂ければと思いますが、運営管理機関には厚生労働省に登録された企業が行い、主に金融機関がそれを担っています。
役員、従業員ともにこの掛け金の中から運用商品を購入していきます。運用商品には、元本保証型と元本変動型に分けられます。元本保証型には定期預金や保険があり、運用益はあまりありませんが、元本が保証されますので安心です。一方で、元本変動型は投資信託と呼ばれるものが該当し、運用益が期待できる一方で元本割れのリスクがあります。この元本変動型があるために、「リスクがある、これはデメリットだ」と言われることもあるのですが、元本保証型の商品を中心に購入することで、リスクは最低限に抑えられます。このあたりは、運営管理機関や企業型確定拠出年金を専門としている社労士に相談するなどで、さらにそのリスクは軽減されるでしょう。
企業型確定拠出年金のもうひとつの特徴は「ポータビリティ」と呼ばれる性質です。これは、例えばA社で企業型確定拠出年金に加入していた従業員が、転職によってB社に入社することになったときに、B社での企業型確定拠出年金に引き継ぐことができるというものです。このため、ひとつの会社で企業型確定拠出年金に入ったら、その会社で定年を迎えるまで辞められないということはなく、転職後も継続できるという従業員に寄り添った性質を持っています。なお、転職先に企業型確定拠出年金がない場合には、個人型確定拠出年金(iDeCo)の口座を開設し、資産を移し替える必要があることは、念のため付け加えておきます。
もうひとつの特徴としては、企業型確定拠出年金は従業員全員に適用しなければならないわけではなく、加入が選べます。こういった点も、良い点といえるでしょう。こうして毎月積み立てていくわけですが、「年金」の名前がついているとおり、企業型確定拠出年金は原則60歳になるまで受け取ることができません。これらについても、また第3章で解説しますが、その性質をきちんと抑えておくことが重要になります。
企業型確定拠出年金のその他のポイント
企業型確定拠出年金の基本的な仕組みについてはご理解いただけたと思います。ここではその他のポイントについて解説しておきます。
まず、従業員の企業型確定拠出年金の掛け金の変更時期は原則として、毎年3月の年1回となります。いつでも変更できるわけではないので注意が必要です。役員の金額変更も、会社で定めた日での変更となります。
掛け金は月額3000円から55000円の間で自由に設定することができます。最低価格は3000円となっていて、これ以下の掛け金に設定することはできません。ただし、確定給付企業年金(※)を併用している場合は、月額の上限は27500円となっています。
また、そのほかの注意点としては、例えば従業員が病気などによって働けなくなってしまった場合、休職前の収入の3分の2に当たる金額を傷病手当金として最大一年六ヶ月受給することができます。しかし、企業型確定拠出業年金で月1.5万円の掛け金を支払っていた場合、収入も1.5万円低く算定されるので、傷病手当金は減ることになります。
加えて、女性の場合は出産した場合などは、法定休暇を取る必要があり、育児休業給付金を受け取ることができますが、同じ原理でもらえる給付金額が下がることになります。
こうした点を「デメリット」という意見もありますが、これは制度上避けられないもので、むしろ従業員にはきちんと説明しておくべきだと私は考えます。こうした場合に備えて、利用している制度によりますが、前掲のように金額の調整は可能です。良い面とそうでない面をきちんとバランスをとって運用していくことが重要だと言えるでしょう。
ここでは従業員の視点からの解説をしましたが、もちろん経営者であるあなたのためにも企業型確定拠出年金は重要です。特に近年問題とされる事業承継問題も、この企業型確定拠出年金で解決できることがありますので、次項では事業承継問題と企業型確定拠出年金の関係について解説していきます。
事業承継問題も、企業型確定拠出年金で解決できる
これまでお伝えしたとおり、企業型確定拠出年金は従業員にとっても、経営者にとっても優れた制度です。中でもやはり、大きなリスクを背負って会社を経営しているあなたの老後を助ける施策とも言えます。
あなたがどのような仕事のやり方を追求しているかはわかりませんが、ある程度会社で成功してひと資産をつくり、老後は悠々自適…というのは、ひとつの理想であるはずです。しかし、中小企業ともなれば、やはりそう簡単にヒット商品が出せるわけではありませんし、自転車操業で繋ぐような経営をされている方もいると思います。
こういった、「会社をやめた途端、お金に苦しむ」というのは実はよくあることで、そのためどんなに歳を重ねても引退ができない。そういう経営者も多いのです。こういった経営者は短期的に稼ぐことに長けている人が多く、なまじっか稼ぐ力があるため、老後の資産について無頓着である場合が多いのです。
老後に一定の資産があれば、会社を辞めることもできます。前向きな意味での引退もできるでしょうし、後継者を探す余裕も出てくるでしょう。しかし、資産がなければ永遠に働き続けなくてはならず、高齢化する身体と精神とずっと戦っていかなければなりません。だからこそ、地道な積立型である企業型確定拠出年金での資産形成が重要なのです。
それに、経営者であれば従業員に比べて、生活水準は高いはずです。高級マンションに住む人もいれば、高級車を保有している人もいるでしょう。でも、そういった費用は、いまの役員報酬を維持できているからにほかなりません。あなたも経営者であれば、晩年に生活レベルを下げるのは、本意ではないでしょう。
経営者は孤独と言われます。役員報酬など見込めるリターンも大きいですが、それ以上に精神的な重圧、そしてストレスも常軌を逸したものを抱えています。そうやって自分を痛めつけながら経営を続け、最後に残された余生が寂しいものになってしまうというのは避けたいところでしょうし、私自身、税理士として頑張ってこられた経営者には、引退後や事業承継後には満足のいく人生を送ってほしいと強く思っています。
そのためにも、いまからの準備が重要なのです。
企業型確定拠出年金は、これからの中小企業になくてはならない制度
これまでをまとめておきましょう。時代背景としては、先の読めない時代と厚生労働省の言う「人生100年時代」。これによって、私たちはより先のことまで考えなければならなくなりました。かつての年金制度だけでは、私たちは苦しくも悲しい老後を過ごすことになります。
誤解を恐れずに言えば、そのためにはやはりお金であり資産形成です。もちろん、世の中のすべての問題がお金で解決できるとは考えてはいませんが、多くの問題がお金によって解決できるのは事実であり、会社経営などはやはりお金がなければ何もできないのも事実です。
お金を残すためには、会社で生まれた利益をきちんと増やしていく必要があります。これまでの王道だった節税施策の生命保険が同じように使えない以上、第3の節税である企業型確定拠出年金を使うことは、言うまでもありません。
企業型確定拠出年金は全額経費になり、社会保険料の削減や所得税等の減税まで実現できます。最初に手続きは必要ですが、特に普段はすることもなく、自然と資産が形成されていく仕組みです。
加えて、これから若い人材を取るためにも必要な制度です。いまや何かあればSNSで炎上してしまう世の中。叩かれるのは大企業ばかりではありません。小さな会社でも、仮に企業型確定拠出年金に入っていないことから火がつき、炎上する可能性もなくはないのです。
そして何より、あなたの老後を豊かにするためにも、企業型確定拠出年金は必要な制度です。これまで、1000名を超える経営者を見てきました。弊所のクライアントであれば、寂しい老後にならないような助言はできます。しかし、言うまでもなくすべての企業に対してアドバイスできるわけではなく、お金がなく引退も事業承継もできず、ただただ疲弊していく高齢の経営者も目の当たりにしてきました。
本書をお読みのあなたには、そうなってほしくはありません。企業型確定拠出年金の加入手続きは決して難しくありませんので、ぜひいまから始めてください。
では、第3章ではより具体的な手続きについて解説していきます。
第3章 企業型確定拠出年金に加入するには
企業型確定拠出年金加入の流れと仕組み
本章では、企業型確定拠出年金加入の流れについて説明します。多くの場合、運営管理機関がこの手続きを代行してくれますが、その流れは抑えておきましょう。ここでは4月から制度を開始する場合を例に、スケジュールも合わせて解説していきます。
(1)10月〜12月-準備から従業員の同意まで-
まずは必要書類を準備します。就業規則、履歴事項証明書、厚生年金適用事業所と確認できる書類などが必要です。企業型確定拠出年金は、厚生年金適用事業第三所でないと加入できないので、これも抑えておきましょう。
従業員への説明と加入者の決定を行います。制度導入には従業員の同意が必要になり、企業の意向だけで加入できるわけではないので、注意が必要です。
(2)1月〜3月厚生局に制度申請
運営管理機関から書類が届きますので、これらに署名捺印等をして書類を整えていきます。そして、厚生局に申請。審査期間は約2ヶ月となっており、書類などは早めに準備すると良いでしょう。
3月中旬には、制度加入者の登録が始まります。これはクライアント側である企業が行うことが多いようです。そして、すべての手続きが終われば、4月1日から制度開始ということになるわけです。
このような流れで企業型確定拠出年金の加入が可能になるわけですが、この手続きがスムーズにいくかどうかは、運営管理機関のサービスがどれだけ行き届いているかによります。運営管理機関によっては、各種の手続きを自社で行わなければなりませんし、従業員への説明なども企業任せという場合もあります。
一方で、運営管理機関によっては手続きのほとんどを代行してくれるところもあれば、従業員への説明なども、オンラインセミナーの実施や動画教材の提供などでサポートしてくれる場合もあります。つまり、運営管理機関の選択も重要なのです。
運営管理機関の見極めは、制度自体は同じですから、サポート部分がどれだけ手厚いかがそのポイントになるでしょう。自社にとって最適な運営管理機関を選ぶことも、制度を理解するのと合わせて重要なポイントになります。
企業型確定拠出年金の制度設計のポイント
企業型確定拠出年金の制度と特徴が見えてきたと思います。ここではより細かい設計を見てみることにしましょう。
制度設計の方法は四つです。①選択制、②給与に上乗せして支給、③給与に上乗せ支給+選択制、④マッチング拠出、の四つのパターンがあります。
多くの場合、従業員は①の選択制を採用し、役員の場合は②の給与に上乗せして支給を選択します。まずはこの二つについて解説していきましょう。
①選択制
給与を減額し、その分を掛け金に当てます。前述のとおり、従業員の加入は任意なので、手取り分が減ることに反対の従業員には、無理に加入させる必要はありません。従業員の掛け金は全額損金となり、給与額が下がるため社会保険料や所得税等が軽減されます。これが一般的な従業員が採用する企業型確定拠出年金です。
②給与に上乗せして支給
現状の給与額を変更せず、給与(役員報酬)に上乗せするかたちで掛け金に当てます。役員の場合、ある程度会社のお金を自由に使えるため、役員報酬に上乗せすることがほとんどです。
多くの場合、この2つの設計で運用を行いますが、残りの2つの設計についても解説しておきます。
③給与に上乗せ+選択制
①と②を足した設計です。より多くの掛け金を捻出できるため、従業員にとっては嬉しい設計ですが、事実上の昇給になってしまうため、従業員の多い企業ではなかなか導入しにくいようです。
④マッチング拠出
これは、会社が負担する掛け金に加えて、加入者である従業員が掛け金を上乗せして拠出する設計を言います。これも、企業側負担が大きくなるため、やはり①と②の併用という設計が多いようです。
3つの税制優遇とメリット・デメリット
すでに税制優遇に関しては解説済みですが、簡単にまとめておくと、まず企業型確定拠出年金の掛け金がすべて経費になること。そして運用商品による運用益は非課税であること。掛け金分によって給与額が減るため、社会保険料や所得税等が軽減されること。そして、次項で説明しますが、受給する場合に一時金は退職所得控除扱い、年金は公的年金控除の対象となり、減税メリットがあります。これらが企業型確定拠出年金の大きなメリットです。
一方で、インターネットで検索すると、企業型確定拠出年金のデメリットを謳う記事等も散見されるので、それらについて触れておきましょう。
(1)60歳まで引き出すことができない
確かに企業型確定拠出年金は原則、60歳までは引き出すことができません。とはいえ、自由にすべて使ってしまえば、当然お金は残せないわけで、無理をしない金額で一定金額をある意味強制的に積み立てすることが大きな意味を持つと私は考えています。
(2)元本割れリスクがある
これも確かに変動型ばかりで運用商品を設計すればそうなってしまうでしょう。あくまで積み立てを前提とするならば、元本保証型の商品で設計すればよいだけなので、これは悪い点を広げているに過ぎません。
(3)手数料がかかる
勘違いされやすいのですが、加入者の手数料がかかるのは個人型(iDeCo)です。企業型確定拠出年金の場合、手数料負担は加入企業になりますので、勘違いされないようにしてください。
(4)将来受け取る公的年金が減少する可能性がある
給与が減少することで、社会保険料や厚生年金保険料が削減できる一方で、従業員としては収める保険料が減ることで、将来の公的年金の心配をする人もいます。しかし、これは制度設計次第で、企業型確定拠出年金をきちんと設計すれば、将来の年金よりも多く老後資産を手に入れることができるのです。このあたりは本当に設計次第なので、運営管理機関としっかり相談して設計していけば問題ないでしょう。
インターネット上では、様々な意見があります。しかし、重要なのは噂や予想などではなく、実際の運用です。このあたりは、惑わされないようにしたいものです。
受給方法と退職所得税制について
企業型確定拠出年金で老後のための積み立てをする…というと、決まってこのような意見も出てきます。
「少しずつ積み立てるのではなく、賞与や給与などでもらってしまえばよいのでは?」
確かに、特に役員であればその方がすぐに現金が手に入りますし、現実的のように見えます。しかしながら、ここでも立ちはだかるのが税金と社会保険料です。ここでは、「給与・賞与」のみの所得と、退職金として退職所得税制を活用したときの違いについてみてみましょう。
まず給与で500万円受け取った場合に残る所得は約390万円。約110万円も差し引かれます。賞与の場合はどうでしょう。仮に賞与を2,000万円受け取ったとします。このときの手取り金額は、なんと約1,560万円。実に500万円近い金額が税金と社会保険料になるのです。
これに対して退職所得税制を活用した場合はどうなるでしょう。退職所得控除の計算式は次の通りです。勤続25年で計算しています。
◯退職所得=(収入―退職所得控除額)×1/2
◯勤続年数(A)
(1)20年以下…40万円×A
(2)10年超…800万円+70万円×(A―20年)
これを2,000万円の退職金に当てはめてみると、20年超なので(2)の計算式になります。800万円に、70万円に5年をかけた金額(350万円)を足すと850万円。これを1/2にして425万円。最終的に税金を算出すると、手取りは1,914万円ともとの金額にかなり近い金額になることがわかります。給与500万円でも100万円以上が税金・社会保険料になるということを考えると、いかに退職所得控除が大きいかわかるはずです。
このように、給与所得は給与所得で重要ですが、控除を利用してきちんと現金化することが、最終ゴールとして重要です。なお、いうまでもなく年金的に長期で受給することもできますので、そのあたりは運営管理機関と相談して、設計を決めると良いでしょう。
導入に必要な手続きと専門家の活用
最後に、その他の注意点と運営管理機関の選び方について解説します。
まず、いますぐ取り組んだ方が良いというのは、加入が早ければ早いほど恩恵が多いということになりますが、手続きに時間がかかることもひとつの理由です。およそ6ヶ月程度はかかるので、やはり早めに手続きを進めましょう。
事務的な手続きもあります。就業規則の変更や、給与明細も変えなければなりません。そのほか、入社時の手続きも増えますし、従業員への周知や投資に関する教育、啓蒙なども必要になってくるでしょう。
このように、メリットが多い一方で手続きやその他やらなければならないこともあります。そこで重要になってくるのは、運営管理機関の選択です。主に金融機関が企業型確定拠出年金を取り扱っていますが、銀行なら任せて安心、というわけでもないのです。
おそらく、本書をお読みのあなたは小さな会社の経営者のはずです。小さな会社の企業型確定拠出年金を依頼するなら、中小企業の導入事例が豊富な運営管理機関を選んで相談すべきです。そのため、中小企業の経営全般の理解度や、中小企業での事例の豊富さなどの点から、運営管理機関を行っている税理士法人や社労士法人を選ぶとスムーズでしょう。
そして忘れてはならないのが、社会保険労務士の存在です。就業規則など労務管理上の変更も行われますから、様々なリスクを踏まえて管理ができる社会保険労務士が在籍している、あるいは提携しているという点も、重要な選択ポイントだと言えます。
そして何より重要なのは、あなた自身の人生設計をもう一度きちんと考えることです。何度もお伝えしていますが、経営者は稼ぐ力があるからこそ、将来について楽観的です。しかし、いまが良くても、老後はわかりません。働くことができなくなっているかもしれないし、もっとお金が必要になる可能性もあります。
せっかくここまで頑張ってきたわけですから、ぜひあなたの望む理想の老後を手に入れるためにも、いまから準備しておいてほしいと切に願います。
本書が少しでもお役に立てましたら幸いです。
終わりに 30年後も選ばれる企業になるために
同じような話になってしまいますが、本当にいまは先が読めない時代です。私自身、税理士法人の経営者であるため、業績を維持することには関心が高いのですが、企業型確定拠出年金を知るまでは、あまり老後資産を考えることもありませんでした。
しかし、徐々に自分自身も年齢を重ね、20代、30代のときとは同じように働けなくなってきている事実もあり、いまでは自社でも企業型確定拠出年金に加入していますし、多くのクライアントに企業型確定拠出年金を勧めています。
30年後に、どのようなビジネスが残るのかはわかりません。2022年にはChatGPTに代表されるようなAIチャットの台頭など、世の中が大きく変わっているのを肌で感じます。最終的に企業が生き残るためには、やはり「人」と「お金」です。
資産や現預金が多くて潰れる会社はありません。お金は重要です。そのお金を増やしていくことはもっと重要です。
そして、お金があっても人がいなければ会社は回りません。これから、若い人材も含めて、お金のリテラシーは上がり続けます。それは、みんな不安だからです。そんな不安を企業型確定拠出年金が払拭してくると私は考えています。ぜひ、いまから企業型確定拠出年金を始めてみてください。
また、当税理士法人では、社会保険労務士法人を併設しており、企業型確定拠出年金のご相談も承っております。初回相談は無料でお受けしておりますので、下記からお気軽にお問い合わせください。