喧嘩の二重唱 Via resti servita
今日のおすすめは!
モーツァルト作曲 『フィガロの結婚』
喧嘩の二重唱 Via resti servita
*今回はスザンナちゃんと恋敵であるマルチェッリーナとの
通称”喧嘩の二重唱”の鑑賞方法について綴っていこうと思います。
このシーンは、オペラファンの中ではとても有名であり、
演者の力量が如実に現れる為、演者泣かせの場面になっています。
私も昭和音楽大学の声楽科に在籍中、”オペラ演習”という授業で1年かけて、深く勉強致しました。
また、門下の発表会や所属していたオペラ研究会サークルなどでも折に触れて演じた思い出深い1曲です。
①レチタティーヴォ
レチタティーヴォとは、ミュージカルとの決定的な違いを作っている要素です。(厳密にいうと諸説あり)
ストレートの劇と違い、オペラはセリフも全て「歌」で観客に語りかけます。
演者は、音楽でありながら「如何に話しているように聞こえるか」という事を試行錯誤しております。
瀧蓮太郎などの日本歌曲も影響を受けており、言葉のアクセントにくる音を伸ばし気味にして自然な歌詞になるように工夫しています。
皆さんが普段聴いているポップスなどもこの技法のお陰で違和感なく聞き取れる歌詞に発展しました。
レチは日本人なのにイタリア語をペラペラ話しているように演じなければならないだけでなく、言葉1つ1つに音程が決まっているので非常に高い難易度になっています。
怒りや悲しみなどの感情が高まるシーンでも厳格なソルフェージュ(音程感)が求められます。
*フィガロの結婚におけるレチタティーヴォ
『フィガロの結婚』の喧嘩の二重唱はレチタティーヴォが厳密に計算されており、台本作家のボーマルシェとモーツァルトの才能が際立っています。
1つとして不要な言葉、音符はなく、セリフにも深い教養がなければ理解できないような様々なオマージュが隠されています。
*オペラ通のフレーズの聴き方
また、レチを演じるためにはいくつかの感情を素早くコントロールしなければなりません。
今回はこのフレーズをオペラ通の視点で読み取っていきましょう。
オペラ通は、la speranza(希望)の”やっと手に入れた!”という喜びの表現や、”Ma susana”の”あっ”という驚きの一瞬の息遣いの変化、
io vo’の企み方や声量(例えば小声であるか)、
E quallaでの声量の変化(例えば大声であるか)、
嫌味っぽく言えているか、Buonaが大袈裟に言えているか、
真珠(=フィガロ君の隠喩)を理解しているか…
など1フレーズで様々な事を見て、演者の実力をチェックしています。
*オペラ通の演技の見方
また、マルチェが話している間のスザンナの行動にも演者や演出家の解釈の違いがよく表れています。
演劇の勉強をした方は分かると思いますが、台詞がない時の自分の動きは、台詞を言っている人の”行動のきっかけ”にならなければいけない為、台詞を全て暗記し、その台詞を”言わせる”為に前倒しで行動しなければなりません。
“ma susanna”(あっスザンナが来た)とマルチェが言う為には、その台詞の直前に、唐突に舞台上に姿を現さなければなりません。
しかし、何故その部屋に来たのかをスザンナ役は考えなければいけません。
舞台上は全ての行動に意味付けしなければならないからです。
この場面ではスザンナが洗濯物を取りに来たという設定になる事が多いのは、次の場面で洗濯物が出てきて、nastro(リボン)などを使用する為です。
*スザンナが部屋に入る意味付け
さて、スザンナはマルチェが同じ部屋にいる事をいつ気がつくのでしょう。
部屋に入ってきた瞬間なのか、悪口を言われた瞬間なのか。
日本と違い、スペインのお城の一室なので広くて気付かない可能性もありますが、スザンナの初台詞”dimafabella(私のことを言っているわ)で、
マルチェが居たことへの驚きや悪口を言われた緊張感のどちらも一気に表現するのは至難の技なので、大抵は部屋に入った瞬間に気付きます。
また、スザンナは頭が良く、機転が利くキャラだという事や直前までマルチェが大声をあげて喜んでいた事も意味付けのヒントになります。そうなると、部屋に入った瞬間、観客に”今、気付いた”と伝わるようにマルチェの方を見る事、そして”まずい!”という表情を観客に見せなければなりません。これらが出来ているかが重要です。
沢山チェックポイントを書きましたが、上記の台詞はわずか十数秒。
オペラは基本2-3時間上演するので、オペラ歌手というのは非常に知的で、体力的にも大変な仕事です。
②アリア
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