「人事のひと」というアイデンティティ、そして先輩からの手紙 -壺中人事塾での学びシリーズ
これはほとんど独白というか、塾の講義とは関係なく自分のために大切なことを心に刻むための記事である。
今回壺中人事塾に参加して心の底から良かったと思うことの一つに、ああ私って人事という仕事が心から好きだと思えた、というのがある。
私はリクルートに14年もいて、キャリアの中心はほとんど新卒採用、しかも文系の総合職しかやってなくて、最近増えているエンジニアだのデザイナーだのマーケターだの、いまどきの職種は扱ったことがなかった。中途採用もHRBPも労務もやったけどそれぞれ1年弱だし、特筆すべき成果も出せなかった。
だからリクルートを辞めてからも「人事コンサルタント」と自信を持って名乗れなくて、「新卒採用コンサルタント」と名乗り、ご縁のあったクライアントさまには得意領域は文系総合職ですと話してきた。でもやっぱり、新卒採用しかやらないならリクルート辞めた意味もあんまりないかもなあと思ったりもして、途中から、怖いなーと思いながら「人事コンサルタント」と名乗り始めた。
でも、そう名乗り始めてからの方が、ご縁がつながっていく感触があった。まあ冷静に考えれば新卒採用しかできないですと言うよりは、もっと高い「人事全般」という抽象度でお付き合いできますと言った方が、クライアント様は広がるわけで、ごくごく当たり前なことではある・・・何にせよ、一度こう名乗り始めると、新卒採用、という人事の中の一施策の抽象度に自分が留まっていること、それ以外の領域に全く自信が持てないことをダサく思い始めた。人事のこと全部やれますって言えた方が自分の理想の未来に近い。だとしたらその理想に近づけるように学べばいい。そう思って門を叩いたのが壺中人事塾だった。
参加してみて、どの領域のテーマに対しても、ある程度は、自分の持論をちゃんと持てていることがわかった。講義の中で出される問いに対して「これは全くわからん」と思ったのは等級の回ぐらいで、それ以外は、わりとすらすらと答えることができた。ほぼ新卒採用しかやったことないという自己認知の中で、これはすごく不思議な感覚だった。一方で、自分がこれまで人生の中でふわふわと考えてきたことを、とても美しく整然とした図や言葉で表現している先達の理論や調査結果などに圧倒されたりもした。自分よりもよく学びたくさんのことを知っている同志にも大きく刺激をもらい、自分の未熟さも思い知った。
こうして講義の回を重ねるごとに、私は、人事という底なしの深海にどんどん吸い込まれていった。そしてその深い深い海の真っ只中で、私はもしかして、何かこの人事という領域に、真っ直ぐに向き合うために生まれてきたのかもしれない・・・・という、静かな光のようなものに触れることになった。いまこうして書いてしまうととっても簡単なことのような気がして、大事なことが落ちている気がして、自分の言語化の力がないことをとても悔しく思う。
自分の言語化の力がないので、ここで、ある先輩からの手紙について書かせてもらいたいと思う。
今から10年近い前に、別の会社に転職を考えたことがある。広く転職活動をしていたわけではなくて、ただその時入りたいと思った会社があって、なかなか採用活動をしない同社がたまたま人事のポジションで中途採用の枠を開けていたので、応募をした。新卒採用の仕事も面白く最高の仲間と仕事をしていた時のことだった。
その会社のエントリーシートは、「あなたの親しい人に、あなたのことがよくわかる推薦文を書いてもらってください」というものだった。
誰に書いてもらおうかと迷って、その当時新卒採用のお仕事でとってもお世話になってとてもとてもリスペクトしている、10コ以上年上の大ベテランの先輩にお願いした。この方は新卒採用は兼務で、広報がメインのミッション。とてもとても愛のある言葉を使う方で、そんな方に自分のことを書いてもらったらどんな文章になるのかと、もはや転職活動のためというよりもちょっぴり興味本位みたいなところもあった。ある日、実は転職を考えていて、こういうお願いをさせていただけないでしょうかと、ドキドキしながらお願いをした。
その手紙がこれである。
平井咲子さんの推薦文
この推薦文を書くにあたって、わたしは2晩ほどぐっすり眠れませんでした(2日前に推薦文を書く依頼を受け・・・)。推薦して、彼女が本当に転職することになってしまったらどうしよう・・という自分勝手な気持ちと、何としても応援したいなという気持ちが揺れ動き、それでようやく覚悟を決めて、この推薦文を書くことにしました。でも、できることなら、もっともっと一緒に仕事がしたいし、私たちにとって本当にかけがえのない大切な仲間なので、もし可能なら数年後にお返しいただけるのなら、とっても嬉しいです(勝手なことを言ってスミマセン・・・)。
平井咲子さんは、ものすごい泣き虫です。嬉しいことがあると、ぼろぼろと大きな涙がこぼれてきます。自分のことでは泣きません。仲間とか、家族とか、学生とか、転職者とか、そういった自分以外のひとたちのことを思って泣きます。「あなたは、そんなもんじゃない。きっともっとできる。もっとあなたらしく生きられるよ!」・・・声に出しているところを聞いたことはありませんが、そんな気持ちで人に向かい合っているのがわかります。まっすぐな目で、満面の笑みで、信じぬくから、彼女に真正面から対峙された人は、何かが自分の中でぽろりとむけるみたいで・・・それまで自信を失っていた人も、何かを見失っていた人も、少し傲慢になっていた人も、その人らしい顔になっていきます。いい顔になるまでに数年かかることもあるみたいですが、でも、ただひたすら信じて、待っています。
そうした人たちが大切に扱われないと、とても怒ります。例えば採用広報の仕事で、仲間たちそれぞれの持ち味をWEB上で紹介するという企画を進めていたときに、WEB制作者が書いてきたコピーを見て、めずらしくめちゃくちゃ怒っていました。「この人の持ち味はこんなもんじゃない!!」そして、夜なべして自力で懸命に修正した文章は、その人たちの持ち味をみごとに表現しきっていました。
自社の新卒採用の仕事では、不合格者であっても、誰もがかけがえのない持ち味を持っているのだから、皆が自信を失うことなく社会に出て行ってほしい・・・というものすごい使命感を持って、不合格者にもきちんと「あなたはこういう良さがある」というフィードバックをしよう!ということにこだわっていました。ともすればきれいごとに終わってしまうこうした取り組みも、心の底からの使命感があるからこそ、約1200名の仲間たちが共鳴して、一緒に取り組むことになったのだと思います。圧倒的な当事者意識と、最後までやり抜く姿勢は、後輩ながら頭が下がる思いです。たくさんの勇気をもらいました。でも、無理しないで体に気をつけてほしいです。
人の事に、まっすぐに向き合うために生まれてきた。人事のプロになって、世の中の「人事」の在り方を、あるべき形に先導していくために生まれてきた。そう思えてならないので、寂しい気持ちをこらえて推薦いたします。私たちの大切な平井咲子さんが、どうか世の中のために、活かされぬくことを、心から願っております。
この時の転職活動は面接で不合格になり、あっけなく終わった。でもそんなこと以上に、私にとってはこの手紙が、本当に本当に、心の底から素晴らしい宝物になった。
この手紙をいただいてから約10年の間、私は折に触れてこの手紙を何度も何度も何度も読み返した。何度も勇気をもらってきた。でも最後の段落で書いてくださっていることは、いまのいままでずっとずっと、しっくりきていなかった。ほとんど新卒採用しかやったことないのに、実務経験も少ないのに、本から学ぶのも心底苦手なのに、そんな私が人事のプロなどと名乗っていいはずがない。人事の在り方を先導するなどおこがましい。何度読んでもこの段落だけずっと受け取れずにきた。
でも今、塾での学びを経て、やっと、やっと、私は人事のプロとして胸をはって生きていこうと思えている。これまでの経験がどうだとか、勉強が苦手だとかそんなことは心底どうでもいいというか、自分が感じる使命に対してまっすぐ生きることを選択しない理由には一切なるわけがない。そういう現在地のできないことだらけの自分を大きく超えて、自分自身の命として向き合うべき何かに、いま私は触れているような気がしてならない。
人の事に、まっすぐに向き合うために生まれてきた。人事のプロになって、世の中の「人事」の在り方を、あるべき形に先導していくために生まれてきた。
このことをこれからも握って生きていこう。決しておごることなく、誠実に、謙虚に。できていないこと、耳の痛いことも受け止めて、貪欲に学び成長しながら。