物乞いにかける言葉
ロンボク島の中心地のマタラムにある公園で座って友だちとおしゃべりをしていると、「お金をください」と子どもが寄ってきたり、ギターを持った人が目の前で歌い始めたりする。
アジアを旅行するとどこでも見るような光景であるが、一緒にいた友人がインドネシア語で何かをいうとみんな離れていく。
そんな魔法のような言葉があるのか、もしかして相当ひどいことを言って追っ払っているのではないかと少し心配になって彼に言葉の意味を恐る恐る聞いてみた。
インドネシア語で「サバール」という言葉を彼はPatient と訳して教えてくれた。「我慢してね」、「辛抱してね」と日本語に訳したら良いだろうか。
一人の男の子が彼の腕を持って何度も何度もお金が欲しいというお願いに対して彼は何度も「サバール」を繰り返していた。
物乞いの人たちにきつい言葉を投げかけるのはここではすごく下品なことだという。かける言葉は相手の気持ちを害さずに勇気付けるような言葉であるべきなのだそうだ。
「彼らはやりたくてやっているわけではない。社会がそうさせているんだ。でもお金は渡さない。夜中になるとボスがやってきて子ども達からお金を取っていくんだ。お金を渡しても彼らのためにはならないからね。」
あんまりにもみんなが幸せに暮らしているロンボク島の村で私は、「ここに貧困はあるの?」と聞いたら、笑いながら「ここはみ〜んな貧しいよ。でもお金がなくてもなんとかなるんだ。野菜が欲しければ隣の人に、卵が欲しければおじさんに、って感じでお金がなくても誰かが助けてくれるからね。暮らしはすごくシンプルなんだ。」という答えが返ってきたのを思い出す。
人が仕事を求めて都市に移動し、村の過疎化が進む現象は世界中で起こっている。でも、お金ではない価値に焦点を当てた時に果たして本当に都市で暮らすことが幸せなのか考えさせられる。
「サバール」
悲しい現実の中にある優しいインドネシアの心がこもった言葉だと思った。