⑨6才臼歯の断末魔とインプラント
突然6歳臼歯が激しく痛んだ。それは突然の出来事だった。とても驚いて、最初何があったのか理解できなかった。歯茎が思いっきり腫れていた。原因が分からなかったので、歯医者でCTを取った。CTが何かも知らず、初めての経験だった。相当な放射線量を浴びる技術であると後で知ったが、言われるままに診察を受けるしかなかった。
CTの画像に愕然とした。もちろん、現代の技術ってすごいなも思った。
奥から2番目の6歳臼歯の骨の部分、歯の根が埋まった部分がスポンと骨が溶けていたのが、3D立体画像として見えた。
「うわ!何だこれ??」
そう思った。
根尖病巣によるものだったらしい。歯の根が刺さる骨の部分溶けていた。ワイヤー矯正でバンドを付けていた歯。歯の中でも一番負担がかかるとされる6才臼歯。歯ぎしりや食いしばりで、一番力がかかった歯。
もうその歯が駄目になっていた。
歯を失う恐怖。
その時、それは大きくのしかかった。大学生の頃歯列矯正を始めた時は健康な歯を抜いて失ったのに、綺麗になるよという言葉を信じていたので
歯を抜くことを何とも思わなくなっていた。
でも、残された命もあと僅かであろう6歳臼歯を前に、青ざめた恐怖が全身を包んだ。
歯列矯正をしたからだ。
そう思った。でも、もう取り戻せない。取り返しがつかない。
そしてきっと、直接的な原因なんて証明できないんだろうと思った。
歯磨きやマウスピースなど、ありとあらゆる形で歯を守り、延命を試みた。
しかしどうやっても改善しなかった。状態は悪化する一方だった。
インプラントの話も少しずつ提案され始めた。他の歯医者にセカンドオピニオンとして診察を受けても、もう改善の術は無いと言われた。
その歯が虫歯になっても、削っても、もう全く痛まなくなった。
「歯茎が嫌な下がり方をしている」
そう歯医者に言われた。
もう全く歯が痛まなくなり、神経が中で死んでしまったことが予想された。
歯槽硬の融解はなだらかな下り坂を描くように進むため、左右の歯への影響も懸念された。
歯の自然脱落を待つくらいなら、潔くインプラントを決断したほうが良いのかも知れない。私の心は傾き始めた。
かかりつけの歯医者で、初めてのCTを取り、自分の歯の現実を知らされた。
今まで原因不明の知覚過敏と片付けられてしまっていたのに、初めて見つけてくれた時は心から感謝した。
しかし、タラレバ娘であり私は、後悔したがりの愚かさを承知の上で振り返ると
もっと色んな歯医者の意見を聞けば良かったのか…
そんな思いが過ってしまう。当時は再生医療などという言葉もメジャーでは無かった。というか、私のリサーチ不足であったかも知れないけど。
信頼するかかりつけ歯医者の説明は筋が通っていたから、もう諦めがつき始めていた。
インプラントを決意した。
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