映画レビュー『ファントム・スレッド』
※デイトレしながら観たので見落としがありますが、印象だけざっくりと書き留めておきます。
この映画は、崇高な美を個人的な恋愛体験という凡庸さに溶け込ませるととてもひどいことになるということを示しているように思う。
ミレニアル世代、スリーカンマクラブ等々のハイエンドクラスに属する種族がオートクチュールに回帰しているという記事「ミレニアル世代はどのようにしてオートクチュール最大の顧客になったのか。」をヴォーグで読んだ。
ファッションだけで年間1000万円以上使える層を顧客として確保できても、オートクチュールは自転車操業の赤字零細事業である。
それでも継続させているのは、この事業がブランディング戦略の不可欠な要素だからだ。
ただし、ハイエンンドの顧客がファッション業界に豊穣をもたらすことはない。
彼らが、寝ているだけで毎日増え続け使いきれないほど有り余っているお金がファッションに一部流れたところで、オートクチュールを支える少数の職人を生活させるくらいにしかならないだろう。
ファッションは火のエレメントの産業である。
先述の記事によると、香水が最も利益率が高いそうだ。
香水は、揮発性の液体である。
物質としていつまでも同じ形を留めている服を、10年も着続けることはできない。
ファストファッションは現在最も火のエレメントにふさわしい展開をしている。
いっそのこと、使い捨ての紙の服を開発したらどうかと思う。これまで洋服を洗濯したりクリーニングに出したりしていたコストや時間を他に回すことができる。
プレタポルテが最も中途半端で割りを食っている。
ターゲット層がファッションに年間いくらかけられるのか特定しづらい。
デパートの顧客は消費社会の構造の中では衣食住全方向に出費する機能を担っている。
必ずしもファッションだけにお金を使っているわけではない。
着飾るのは羨望の眼で見られたいという動機が重要になるが、利回りで暮らしている層は、むしろやっかまれることを避けて地味に暮らすことを好む。
消費社会の進展に伴いオートクチュール事業が1950年代から衰退の一途を辿りすみっこに追いやられて行った哀愁を、俳優がうまく演じていた。
崇高な美に捧げた命が生贄として日々の生活の中で焼尽されて行くことに無抵抗なまま老いて行く男。
バターが焦げる匂いは香水と相性が悪い。