HATSUKOI 1981 第16話
第16話 バンド名
洋平たちのバンドは、フォークのコピーバンド。主にかぐや姫やNSPをコピーしている。世代的にはリアルタイムではないが、フォークブーム真っ只中だった兄たちの影響で、自然と聞くようになり、兄のギターを借りて弾くようになった。洋平の兄と義人の兄は同じ歳で、ギターの腕はかなりなもの。それを見よう見まねで始めた。だから、得意な曲も兄たちの得意な曲。十八番は「神田川」に「22歳の別れ」。時代はフォークから徐々にニューミュージックといわれるものに変わりつつあり、こんな田舎でもロックなど洋楽が一般的になり始めていた。洋平たちもそれらを聞くには聞くが、自分たちでギターを弾いて歌える、まさに音を楽しむ「音楽」として、まだフォークが最高のものだった。コンテストで何をやるのか?とりあえずデモテープ用にどの曲を選ぶか?バンドの誰も迷いはなかった。「22歳の別れ」。中学の文化祭、卒業コンサートでもやってきた十八番中の十八番。義人のリードギターが一番際立つ曲。洋平の変則スリーフィンガーもさえる。和夫の安定したベースに実の澄んだボーカル。これ以外なかった。急遽水曜日の夜に、マイクなどの録音機材をかき集め、義人の家に集合。二、三回練習した後、ワンテイクで録音完了。普段の練習でも必ずやる曲だから練りこむ必要はない。
録音の後かたづけをしながら、和夫がボソッとい言った。
「バンドの名前、どうする?」
みんなのかたづけの手が止まった。実が続いて、
「そうだなあ・・・ コンテストだし、思い切って変えるか?」
「例えば、どんな?」
義人が聞く。するとロマンティスト和夫が
「古時計」
「なんか陰気くさくね?」
実が突っ込む。ちょっとむくれて和夫。
「じゃあお前はどんなのがいいんだよ!」
「横文字のほうがかっこよくねえか。シャークスとか。」
あきれて和夫が、
「鮫出身だからシャークスかよ… 安易過ぎるよ。 それに俺たちフォークバンドだぜ。 ちゃちなロックバンドみたいな名前はなあ… 」
「なんだとー!」
「やめろよ。こんなことで喧嘩すんの。」
あわてて止めに入る義人。そして一瞬考える。
「ん?なんかこんなこと、前もあったよな?」
洋平が口を開き、
「ああ。中学でバンド組んで、名前決めたとき・・・」
「あーあ、俺たち進歩ねーなあ!で、どうするリーダー?」
義人に言われて洋平は、
「変えなくたっていいだろ?」
実、和夫が反発。
「えー?八戸中にさらすんだぜ?」
「もっとかっこいい名前にしようよ。」
それでも洋平は動じず、
「いいじゃないか。どうせ田舎モンなんだし。 名無しの権兵衛、ごんべえず。これでいいよ。」
「はい。決定!これまで!!」
義人の一声でバンド名『ごんべえず』の続行が決まった。
続く・・・
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