HATSUKOI 1981 第42話
第42話 その夜
「洋平!あんた何やってんの?
学校サボって!もうすぐ期末試験だし、進路決める大事な時期なのに・・・最近成績落ちてるって、先生言ってたわ。
どうする気なの?由美ちゃんだって大事な時期なんでしょ?
ほんと向こうの親御さんにも申し訳ないわ!」
洋平は黙って母親の小言を聞いていた。言ってることは全く持ってもっともだし、自分でも自覚してる。反論の余地はない。
「ごめんなさい…、期末頑張るから…」
それしか言いようがない。いつもなら真っ先にすごい剣幕でどなりたてる父親は、ソファーに座って、ウイスキーを飲みながらテレビを見ている。いつも優等生で、お利口さんぶってる洋平が嫌いな父親は、今回のことに満足しているのか、笑っているようにも見える。
「もう、こんなんじゃ、由美ちゃんとの交際も認められないわね!」
この言葉に洋平はさすがに黙っているわけにはいかなかった。胸の奥から熱いものが湧いてきて、普段ださないような大声で叫んでいた。
「認めるとか認めないとか、何だよ!
お母さんにそんな権利があんのかよ!
もう一月ないんだよ。由美に会えるの…
今学期終わったら、それから一年以上会えないんだよ。
すぐ、お母さんのお望み通りになるんだ。
それまでほっといてくれよ!!」
そう言うと洋平は家を飛び出した。これまで一度も親にたてついたことのなかった洋平が、いきなり大声で怒鳴った。母親も父親も茫然となった。
洋平は、そのまま由美の家へ向かった。由美もしかられてるだろう。自分から由美のお母さんに説明して謝ろう、そう思った。呼び鈴を鳴らすと、中から由美の声が聞こえた。
「ハーイ、どなたですか?」
ドアが開くとすぐ洋平は言った。
「由美ちゃん大丈夫?うんと叱られた?」
「え?うん。ちょっと小言は言われたけど別に・・・」
後ろに由美の母親が現れた。洋平は頭を下げると謝り始めた。
「お母さん、ごめんなさい。僕が悪いんです。僕が無理矢理誘ったんです。由美ちゃんは悪くないんです。叱らないでください!」
奥から玄関先に出てきた母親は、優しい口調で話しかけた。
「頭をあげなさい、洋平君。
ちょっと注意はしたけど、別に怒っちゃいないから。
洋平君、かなり絞られたのね。でもあなた、覚悟の上でしたことでしょ。
ちゃんと謝って、許してもらうしかないわ。すぐ家に戻りなさい。」
そう言うと母親は、奥に消えていった。由美は洋平の手を握った。
「ありがとう。わざわざ来てくれて。でもうちは大丈夫だから。
お母さん若いころ、かなりやんちゃだったんだって。
今、その話聞いて盛り上がってたとこ…」
「由美ー、よけいなこと話すんじゃないよー!」
奥からお母さんの声。
「でも、洋平君、かなり叱られたんでしょ。ごめんなさい。」
「いや、大したことないよ。
お母さん、怒ってないんだ。よかった…
じゃ、これで、帰るから…」
背を向けて玄関を出ようとする洋平の肩を由美が叩いた。振り返る洋平の口にチュッと口づけると、由美はにっこり笑って言った。
「元気出してね。」
「ありがと。」
洋平は由美を抱きしめた。
由美の家を後にした洋平だが、まっすぐ家に帰って両親に謝る気になんかなれなかった。かといって、二月の寒空に外で夜を明かすことなんかできない。公園の公衆電話から義人の家に電話をかけた。
「義人?俺。今晩泊めてくれないか?」
つづく・・・