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I am 植物キラー〜ざんげ〜

「大丈夫、エアープランツって絶対枯れないんだよ」

そう言って、久々に会った友達が私の誕生日に
とある植物をプレゼントしてくれた。

思わぬ贈り物に感謝を伝えつつ、質問をぶつける。

「エアープランツって、なに?」

友達によれば、「とにかく枯れない、根も土もいらないオシャレ植物」とのこと。
私の中の"植物には根があって土と水が必要である"という概念が、友達のこの一言で一瞬にして枯れ果てたのだった。

なんだそれ、植物界にそんな型破りなヤツがいたとは…

植物キラーの異名を持つ私からしたら青天の霹靂だった。

「最強植物じゃん!」

私は今まで数々の植物たちを悔しくもアレしてきた。
"アレ"については野暮にいちいち説明しないので、どうか察してほしい。

もちろん自分としては、みな手塩にかけて大切に育ててきたつもりだ。しかし見る人が見れば手塩にかけるどころか砂糖でもぶっかけて育てたのかと思うような、そんなロクでもない育て方をしていたのかもしれない。

愛が全てさをモットーに、ちょっと愛やら水やらを注ぎすぎたのだろう。

かつてはガジュマル…ん?カジュマル?いやカジュ……もう名前もあやふやな時点でそもそも育てる資格すらなかったのだが、とにかく大切に大切に育てていた。
(とりあえずここではガジュマルでいく。)
そんなガジュマル1号、ガジュマル2号兄弟をはじめ、数々の我が子達は次々と根が腐ったヤツに育ち、そして枯れていったのだ。

私は本当に植物を育てるのに向いていないんだ…と実感する日々だった。
愛情をかければかけるほど腐らせてしまうのだから。

そんな私を見てある時、3人の子どもを育てあげた、いわゆる育てのプロである母が不敵な笑みを浮かべながら私に言った。

「あんた、植物キラーだねぇ」

「へぇ…!?」

私の頭の中で"植物キラー"という言葉がファンファンとエコーし、育てのプロから命名されたこの異名に私自身とんでもなくしっくりきたのだった。

そう、私は植物キラーだ。

こうしてその日から、私は植物キラーとして普通の人間の顔をして人々に紛れ、普通の人間社会でそれなりに生きてきた。なるべく植物に関わらないよう注意しながら…

そんな私の前に突如降臨した最強植物、エアープランツ。
もしやこの出会いが私を真っ当な人間にしてくれるのでは…!?そんな淡い期待を持たずにはいられなかった。

私の心の声を知ってから知らずか、

「これ、さすがに枯らしたって人聞いたことないから、絶対大丈夫だよ!」

友達は仏の笑顔でとてつもないプレッシャーをかけてきた。

「うん、頑張って育ててみる!」

そんなこんなでありがたくエアープランツを我が家の一員として連れ帰ったのだった。


覚悟して迎えたエアープランツとの日々は、意外にも非常に淡白だった。

とりあえず日当たり良さげな場所に、置いて、見て、たまに位置を変えたり水を吹きかけて置いて、見て、見て、見て……見た。

月日が流れるのはあっという間だ。

親戚や友達の子どもなど、人の家の子どもの成長を見る度に本当にそう感じる。
最近めでたく生まれたばかりかと思えば次会う時には一丁前に人見知りをしていたり、何やら可愛くおしゃべりしたり…

私のエアープランツも、気がつけば時と共に変化を遂げていたのだ。

「えーっとこれは……」


絶対枯れてるぅぅ!!!

やっちまった、またやっちまったよ!

「これ、枯らした人聞いたことないから」
確かに私の友達はあの時そう言った。

待って、元々こんなんじゃなかったっけ?!

何度もそう思おうとしたけれど、でもやっぱりどう見ても枯れていた。
何故植物について枯れているということだけはこんなにも簡単に分かるのに育てられないんだ。

あぁーマジかようそだろなんでだよくっそぅ…

今回は過保護になりすぎずに、本人の力を信じてそっと見守って育てていたつもりなのに。
いや確かに水をほぼあげなくて良いという浅いリサーチでの育て方が頭にありすぎて、あまりに手をかけなすぎたのかもれない。

私はエアープランツによって真っ当な人間になるどころか、前代未聞の植物キラーというバケモンと化してしまった。

子育てみたいに言うなと言われれば返す言葉もないが…

「植物って、むずかしい。」


人間とは、そうそう変わらないものである。
ちょっとやそっとのことで変われるかもと期待すると、さらに悪化することだってあるのだ。

それでも私はこれからも自分が植物キラー、いや前代未聞の植物キラーというバケモンであることを自覚しながらひたむきに生きていく。

また新たな最強の植物に出会うまで…。








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