知っているとツウかも?生酛・山廃、なんて意味?
ゆるゆる日本酒教室、第90回目を迎えました!大台まであと少しですね!
さて、そんな今回は【生酛・山廃の読み方とその意味について】のお話です。
まずは写真をご覧ください。
日本酒を飲んでいると、どこかで出会う、この表記。
「生酛」と「山廃」
みなさんは読めますか?
時折、「あ・・この・・・なま・・もと・・えっと・・・??」とか、「さんぱい?、お願いします」と、おっかなびっくりで注文している状況を見かけます。日本酒を飲んでいる人と、飲んでいない人とでは大きく受け取りの反応が異なる「生酛」と「山廃」というこの言葉。
どういう意味か、ご存知ですか?
日本酒をよく飲んでいる方や、日本酒の資格を持っている方でも、とっさに聞かれると答えに詰まることがあります。
今回はこの言葉の意味をみていきましょう!
その前におさらい!
①発酵とは…
発酵とは、「微生物」により、「有機物」が、「他の何か」に変化することです。 「麹」により、「お米のデンプン」が、「糖分」に変化する 「酵母」により、「糖分」が、「アルコール」に変化する この工程、同時に並行して、2つ(複数)の発酵が生じている状況を通称「並行複発酵」といいます。
②酵母とは…
酵母は、その特性の一つに、「酸性に強い」というものがあります。 そのため、ほかの雑菌が生存できない酸性の環境でも、酵母は生き残れるのです。 結果として、アルコール発酵が確実に行える環境が整うということになります。
生酛と山廃ーー読み方、意味は?
と読みます。
しれっと読んでお店で注文できると素敵ですね!
そして、次は生酛と山廃の意味です。
おさえるポイントは、日本酒を製造する上での作業工程の違いです。
日本酒は、いきなり全量を造るのではなく、はじめに少量を造り、それをたくさんに増やす、という形式をとります。
はじめに造る少量のお酒を、酒母といいます。
文字通り、その日本酒全体の母、基盤となるものです。
アルコール発酵を行う酵母は、実は非常にか弱い菌。
そのため、ほかの微生物に淘汰されないように、酵母を守ってあげる環境を整えないといけません。
その環境とは、酒母が酸性に傾いている状態です。
酸性の環境を整えるために使われるのが主に乳酸菌が生み出す乳酸です。
生酛と山廃は、酒母を酸性環境にするための手法に関する用語になります。
乳酸菌を自然界から取り込んで育成し、乳酸を造り出す方法が生酛造り・山廃造りです。
生酛造りについて
酒母造りでは、酵母を守るための乳酸菌を自然界から取り込むことと、発酵が進みやすくするために、お米・米麹・水を混ぜたものをすりつぶして撹拌する、山卸し(やまおろし)/酛すりという作業を行います。
トータル何十キロ、時には何百キロにもなるお米と水が混ざったものを、手作業で混ぜるのはかなりの重労働。
この作業、どうにかできないのか?と作業工程を研究・検証・工夫した結果、「生酛造りにおける山卸し作業をやらなくても、酒造りが可能なのでは?」という説が唱えられました。
山廃造りについて
これにより、実際に山卸し作業を廃止したお酒、つまり山廃造りのお酒が生まれました。
しかし、日本酒造りは自然や見えない微生物との戦い。
生酛造りや山廃造りでは、乳酸菌が定着して酒母ができるまでに時間がかかる(4-5週間)こと、失敗するリスクも高いのがそれまでの現実でした。
それならば、乳酸を自然任せではない方法で取り込む方法はないのか?
この方法が研究されたのは、時期的には山廃造りが唱えられた頃とほぼ同時。
乳酸を人工的に添加する方法、速醸(そくじょう)造りが編み出されました。
速醸(そくじょう)造りとは?
速醸造りでは生酛造りや山廃造りと比べ、酒母が2週間程度で完成するという、文字通り、速く、醸すことができるようになり、酒造りが失敗するリスクも激減しました。まさに業務改革だったのです。
通常、生酛造りや山廃造りを行った場合には明記されていることが多いですが、速醸造りの場合は何も書いていない場合がほとんどです。
なぜなら、現在では速醸造りが圧倒的多数であるからです。
現在造られている日本酒の造りの中でのおおよその割合は
と言われています。
何気なく飲んでいても、意外と貴重なものを飲んでいるかもしれませんね。
生酛・山廃造りの日本酒…そのお味は?
「酒母の状態のままを飲んでみたい」、と思うそこのあなた。
酒母をそのまましぼった日本酒も、わずかながらに流通しています。
一例としては、こんなものとか、こんなものとか。
味わいとしては、かなり乳酸の酸味が強調されているので、ヨーグルト・カルピスのようなイメージの酸っぱい味わいが特徴です。
生酛・山廃造りではその製造過程において、自然界の乳酸菌以外にも様々な菌が混ざり込むため、完成した日本酒には特徴的な味わいがあると言われます。
全体的に、味わいは濃いめ、強めな印象です。
しかし、現代で造られる生酛・山廃造りの日本酒では、従来のコクのある芳醇なイメージとは裏腹に、軽やかな味わいのものも現れています。
いま日本酒の人気の最先端を走る「No.6」「亜麻猫」などを造る秋田県の新政酒造は、その製造全てが生酛仕込み。
また、「手取川」を造る石川県の吉田酒造は、“モダン山廃”といわれ、山廃に新しいイメージを生み出して人気が高まっています。
温故知新、原点回帰というような目線でみると、生酛・山廃造りのお酒はとても面白いものですよ!
それでは今回はここまで!
参考:第69回目【日本酒に関わる菌を守るために】
日本酒コラム『ゆるゆる日本酒教室』
日本酒コミュニティ「酒小町」
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今回コラムを書いてくれた社会福祉士×日本酒学講師のダイゴさんのnoteはここから読めます。日本酒以外の話題も含め、優しくてわかりやすい文章が特徴です。
酒小町制作メンバー
執筆:ダイゴ|社会福祉士×唎酒師・日本酒学講師=Sake Social Worker(note)
ディレクション:関谷サイコ(X/note)
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