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日本酒にはなぜ「正宗」という言葉が使われているのか

「日本酒を、もっと身近に」という理念をかかげながら活動している日本酒メディア・コミュニティ『酒小町』。今回は「日本酒にはなぜ「正宗」という言葉が使われているのか」についてお話していきます。 

このマガジンでは、日本酒の豆知識をわかりやすく、ちょっと飲んでみたくなるようなコラムを書いています。

日本酒が好きという人はもちろん、日本酒がはじめてな方、好きで飲んでいるけど専門用語まではちょっと…という方、これから日本酒を勉強してみたい!という方、ぜひお酒を片手に読んでいただけると嬉しいです。

ただ飲むだけでもお酒は美味しいですが、少し知識をいれるだけで普段飲む日本酒が更に美味しく、楽しくなりますよ! 

ゆるゆる日本酒教室、第91回目の今回は【日本酒にはなぜ「正宗」という言葉が使われているのか】のお話です。


まず、暦を意識した日本酒では、元日しぼりと、もう一つ、立春しぼりがあります。(第36回【縁起をかついだ日本酒】より)

そして、日本酒には様々な名前がついています。

こちらの写真をご覧ください。

楽器正宗。知っている人は知っている銘柄の一つです。

日本酒の名前は、手に取る時・メニューとして選ぶ時にはまず初めに目につくところですね。

古来から親しみのある「菊」「桜」のような花や、「鶴」「亀」などの動物を表す単語が使われるなど、縁起のいい言葉にあやかってつけられているものが多いです。

日本酒の名前の中でも、よく使われている言葉の一つが、「正宗」です。

なぜ「正宗」という言葉が多く使われているのでしょうか?
その背景にはいくつかの要素が絡み合っています。

今回は正宗の謎を見てみましょう!


「正宗」の名をつけた酒蔵

一番最初に「正宗」という名前を付けた酒蔵をご存知でしょうか。

正宗の元祖は、兵庫県・灘にある櫻正宗株式会社の「櫻正宗」です。

時は江戸時代の1717年。後に櫻正宗となる“荒牧屋“が初代山邑太左衛門(やまむらたざえもん)によって創業されました。

当時の灘では「猿若(さるわか)」「助六(すけろく)」など、歌舞伎俳優の名前をとったお酒が多く存在しており、荒牧屋でもそれに習って、俳優の名を取って「薪水(しんすい)」という銘柄を出していました。

創業から100年以上経った天保11年(1840)のある日、六代目の山邑太左衛門は、かねてより親交のあった山城国深草(現在の京都府伏見区の北部)にある「元政庵」の住職のもとを訪ねました。

その時、 机の上に置かれていた経典に書かれた「臨済正宗」の文字を見つけました。(画像参照)

「正宗(セイシュウ)」が「清酒(セイシュ)」に音が通じる事から、六代目は次のお酒の名前を「正宗」と名付けることを決めました。

江戸時代後期には、江戸(東京)の町で消費される日本酒の9割は、灘の酒だったと言われています。荒牧屋の造った日本酒「正宗」は、灘だけでなく、江戸でも大好評。

正宗は美味しい日本酒の代名詞となりました。

そして、同時代に創業した酒蔵がその名声にあやかろうと、お酒の名前に「正宗」と次々冠していきました。

商標条例に登録しようとするも…

さらに時は立ち、1884年(明治17年)。
当時の明治政府が商標条例を制定しました。

山邑家は、代表銘柄である「正宗」を登録しようとしたところ、NGが出てしまいました。

なぜなら、お酒の優秀さゆえに正宗の名は一般的に普及しすぎてしまっており、政府は正宗を特別な名称とは扱わず、普通名詞と取り扱ったためです。

そこで、山邑家は国の花である桜をつけることで、「櫻正宗」としたのです。

ちなみに、現在でも有名な菊正宗も同じ流れで命名しており、ここから、「●●正宗」という名前が続々と生まれていきます!


「正宗」の読み方

最初は由来のように「セイシュウ」と読んでいました。

しかし、時が経つにつれて、 人々は「セイシュウ」ではなく「マサムネ」と読み、気づけば「マサムネ」が一般的な呼び名として定着していったと言われています。

なぜこのような事態が起こったのでしょうか?
個人的な考察を挙げていきます。

●識字率の高さ
江戸時代後期は識字率が非常に高く、武士であればほぼ100%、明治時代に入った調査では地域格差を認めながらも全国平均で男子50−60%、女子は30%と言われます。

同世代のイギリスでは、首都ロンドンでも子どもだと識字率は10%に満たなかった、と言われています。耳で聞く音声だけであれば、「せいしゅう」は一つだけになりますが、「正宗」という文字・漢字をビジュアルで理解できるからこそ、同じ漢字を複数の読み方をする、ということができてしまうのです。

●刀の正宗(マサムネ)の存在
「正宗(マサムネ)」は、江戸時代の時点ですでに一般的に存在した単語です。
その意味は、鎌倉時代末期から南北朝時代初期にかけて活躍した刀鍛冶の「五郎入道正宗」(ごろうにゅうどうまさむね)さん本人のことと、正宗さんが作った刀そのもののことです。

正宗さんが作った刀の出来の素晴らしさから人気が出て、その作風は全国の刀作りに影響を及ぼしました。結果として、正宗は一躍著名な刀鍛冶と、刀の代名詞となりました。

一般的には正宗という文字は、マサムネの方が聞き馴染みがあった可能性があります。

お酒と刀、ジャンルは違えど「その業界に大きな影響を及ぼした」という状況は重なっています。

また、これに関連して、後に菊正宗を造る灘の名門・嘉納家が、「名刀正宗のように、切れ味のいいお酒を」という意味を込めた、という逸話も存在しています。良いキャッチフレーズですし、意味合いの重ね方もなんだかしっくりきてしまいますね。

まとめ

長くなってしまいまいたが、まとめると、

・兵庫の酒蔵/現在の櫻正宗の人が、仏教の経典に載っていた「臨済正宗」の音から名前を取ったお酒を造った。
・「正宗」が美味しい日本酒の代名詞となったため、それにあやかって名前をつけ、世に広まった。
・時の流れとともに、読み方が「セイシュウ」から「マサムネ」となった。
(<仮説>識字率や刀匠・名刀の正宗の存在の影響した?)
・「正宗」だけでは一般名称化しすぎていて商標登録ができず、「●●正宗」という名前が増えた。

となります。
それでは、今回はここまで!

参考:
櫻正宗 酒蔵の軌跡
日本酒の銘柄「○○正宗」なぜ全国各地に?
蔵書印データベース ID:11835
正宗(まさむね)- 刀剣ワールド
江戸後期、日本は世界一の識字率を誇った!「寺子屋」が果たした大きな役割



日本酒コラム『ゆるゆる日本酒教室』


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今回コラムを書いてくれた社会福祉士×日本酒学講師のダイゴさんのnoteはここから読めます。日本酒以外の話題も含め、優しくてわかりやすい文章が特徴です。


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執筆:ダイゴ|社会福祉士×唎酒師・日本酒学講師=Sake Social Worker(note
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編集:makio(Xnote)

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