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【連載OL小説】 最終回⑥金曜日/公転女と自転女

書き溜めてた小説貼るので
暇な方だけ覗いてくださいな

目次は、
①プロローグ
②月曜日
③火曜日
④水曜日
⑤木曜日
⑥金曜日
「金曜日」でおわり☺️

登場人物は
主人公(女,独身)
恋愛大好きな後輩の南(女,新婚さん)
昔不倫した事ある?!憧れの道重先輩(女,既婚)
南と不倫中?!橘先輩(男,既婚)
気になる山田先輩(男,既婚)
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公転女と自転女
⑥金曜日


 金曜日、週の最後だと思うだけで1回目のアラームで起きる事ができた。ベッドの中で携帯をいじっているとき、今日の星座占いが気になりのぞいてみたがあまりいい運勢ではなく、せっかくの金曜日に水を差された気がしてすぐに立ち上がって朝の支度を始めた。

 今日は山田先輩と焼き鳥屋に行く日、服はあまり気合いが入っていると思われたくないのだが、何だかんだでヒラヒラしたレースのスカートを履いてしまっている。昨日買った大人っぽい赤めのリップは、なんだかしっくりこなくて首をかしげるも、背伸びした雰囲気が少し上品でいいかもしれないと自分に納得させた。そして今日も山田先輩が気にかけてくれるヒールのパンプスを履いていく。

 機嫌よく駅に向かったものの電車は運転見合わせ。いつも早めに家を出るので電車が止まっていてもあまり焦らないのだが、今日はなんだか気持ちが落ち着かずそわそわしたまま違う線の電車に乗り、慣れない改札と人混みに朝から疲れてしまった。いつもより人が多い電車の中で、朝見た星座占いと違う占いを覗いてみたが、どのサイトも運勢が悪く、星座占いではない血液型占いやタロット占いを試してみて気分をあげてみた。

やっとの思いで会社についたら南がもう出社しており、私を見た瞬間「そのリップ先輩も買ったんですね。今日はちょっと大人のデートにいくんですか?」と言う。このリップをつけている以上、南に絶対何か言われるとわかっていたのに、急な切り返しが出来ず顔を赤くしたままデートじゃないです!とぶっきらぼうに答えてしまった。南はふーんと興味なく仕事に戻っていったので、少しほっとしてしまった。

 道重先輩や他の社員も出社してきた頃、新しい経理システム導入のことで打ち合わせをすることになった。自分に関わる大事なプロジェクトなので少し緊張しながら手帳を持って会議室にむかった。会議室で道重先輩は今回のプロジェクトのリーダーに私と南の名前をあげた。私は勝手ながら自分だけが選ばれると思っていたので何か腑に落ちないものを感じながらも、頑張りますと返事をした。南はいつものキラキラしたテンションで頑張りますと嬉しそうに答えた。
 一生懸命頑張ろうと思いつつも、一人で任されなかった悔しさがどうしても心に残る。道重先輩も私だけでは不安だから仕事のできる南をリーダーに加えたのだと思うととても情けなくなった。
 そんな複雑な気持ちの私に道重先輩が気づき、社内だけのプロジェクトなのでできるだけ若手にも活躍できるようにと上司が南も推薦したのだとこっそり話してくれた。人の気持ちをすぐ感じ取って気配りもできる道重先輩を見て、自分のことしか考えない自分が恥ずかしくなってしまった。

 何となく歯がゆい気持ちのまま、その日1日仕事を終えて、今日は山田先輩との飲み会の日だと気持ちを切り替えた。少し落ち込んだ今日の私にとって山田先輩との予定は最高のご褒美だ。会社のトイレで化粧を直していたら誰かに会うかもしれないので、わざわざ場所をうつして綺麗なメイクルームのあるショッピングビルでファンデーションやリップを塗りなおした。

 待ち合わせの時間まで服を見たりして時間をつぶすのだが、服を見ているようで見ておらず、店員さんに話しかけられても全く頭に入らず、上の空だった。
 待ち合わせの時間の10分前にお店に着き、お店の前で山田先輩にLINEをすると、少し遅れるから先に入っておいてとの返信があったので一人で中に入った。予約の名前の山田と名乗るのが少し恥ずかしい。予約の席は目の前が焼き場になっているカウンターだった。席についてドリンクメニューを眺めながら、ビールではなくて何か可愛いものを飲んだ方がいいのかなと悩んで他のお酒を見るが、焼き鳥屋には可愛い飲み物もなくレモンサワーを一杯目で飲むくらいならやっぱりビールだなと一人で作戦会議繰り広げていた。約束の時間になり、10分ほど遅れて謝りながら山田先輩がきた。仕事を抜けるタイミングが上手くできなかったと、必死に謝る山田先輩は本当に素直で純粋な人なんだなとほっこりしてしまった。

 山田先輩と私はビールを頼み乾杯をした。乾杯の後先輩は鞄から小さな紙袋をとりだした。「この間、パリへ出張に行った時のお土産。」そう言って山田先輩は私に紙袋を渡してくれた。
紙袋の中には、まるで宝石が入っているかのような上品で綺麗なラッピングが施された箱が入っていた。中身は何かと聞くとチョコレートと教えてくれた。おしゃれなお土産に私は全身の毛が逆立つほど嬉しくなった。南が橘先輩にもらったであろうお土産はボールペンで、私は海外のおしゃれなチョコレートをもらった。その事実が私に優越感を与えて羽が生えたようにテンションがあがってしまった。紙袋を受け取るとうっとりとした目でチョコレートをながめてしまい、心の底からわきあがる「ありがとう」を山田先輩に何度も何度も伝えた。山田先輩は喜んでくれて嬉しいと、ビールを一口飲んだ。

 飲み会はとても楽しかった。いつも喫煙所では聞けなかった山田先輩の新入社員や大学生の頃の話等、独身時代の話をたくさん聞かせてくれたので、全く奥さんの事が思い浮かばなかった。私はお酒の力もあって、いつもより素直に人の話を聞くことができて、悪態ついた返事もせずに、ニコニコ話す事ができた。
 山田先輩はお酒にとても詳しく、飲みやすいお酒をいろいろ選んでくれて、私は普段は頼まない日本酒も気分揚々と飲み、更に浮かれてしまい、山田先輩の話す少し大人な話にもノリノリで合わせてしまっていた。

 すると先輩は大人の会話のノリで、焼き鳥屋のあと2人になれるところで飲みなおそうと私に持ちかけた。これはつまり夜のお誘いということなのだろうか。さっきまで酔っ払っていた頭が急にさーっと冷静になってしまった。
 ラブホテルもビジネスホテルも探偵につけられたら大変なので、お断りを入れねばとバタバタ頭を整理させていると先輩は私の家を提案してきたのだ。第三の提案に私はまた混乱してしまい咄嗟に、家に入るところを見られたら大変です!と答えてしまった。山田先輩は笑いながら、「芸能人じゃないんだから誰も見てないよ!見られてもゴキブリを退治するために家に入ったって言えば大丈夫だよ!」と、慣れたように落ち着いて話すものだから何も言い返せなくなってしまった。スマートな会計で流れるようにお店を出てタクシーを探しだす山田先輩に、嫌われるのが怖い私は身を委ねるしかなかった。

 不安と罪悪感でドキドキして頭が爆発しそうな自分と、家が汚い事を心配をする冷静な自分がいて、どうしようを何回も繰り返していた。その時パニック状態の私を誰かが呼んだ。振り返ると南が私に向かって「先輩何してるんですか、21時から私と飲みに行く約束してたでしょ!」と言って手を引っ張った。そして南は山田先輩にむかって「山田先輩こんばんは、私もご一緒して良いですか。」と聞くのだ。山田先輩は急な南の登場にびっくりして「僕はやめておくよ、また飲もうね」と顔を引きつらせながら手を振って行ってしまった。

 びっくりして何も言わない私に南は「今日朝から先輩の様子がおかしかったから気になってたんですよ。山田先輩と夕方会った時に先輩と焼き鳥屋へ行くって聞いたんで、心配で来ちゃったんです。山田先輩下心しかないから気をつけた方がいいですよ」

 南の言う通り、山田先輩は噂通りの遊び慣れた誠実さのかけらもない男性だった。私は後輩の南に助けられたことが恥ずかしくて、言葉が何もでなかった。
 私より南の方が男性経験が豊富なのはわかっていたけど、まるで子供をあやすような口調で話してくる南に、私の心はずしんと重く黒い大きな渦を巻いたような気持ちになった。

 なんでいつもいつも私を見下すような発言や行動をとるのか、私を馬鹿にしているのか、なんで仕事もプライベートも負けたような気分になるのか。でも、南が私のことを敵だとはこれっぽっちも思っていなくて、私が勝手に敵対心を持って勝手に傷ついて、南と自分を比較していつもイライラしたり落ち込んでしまっている事を自分自身心の底でわかっていた。

 今だってそうだ。南は私のことを心配してわざわざ顔をだしてフォローしてくれた。他人が自分のことをどう思うかなんて気にしない南のような人間は相手が敵対心を向けてきたところで、何も気にならないし、敵対心を向けられていることにも気づかない。南は恋愛中心に動いていると思っていたけど、周りのことは気にせず自分中心に動いているのかもしれない。そんな太陽みたいな軸に私みたいな人の顔色ばかり伺う人間がぐるぐるその周りを回っているのかもしれない。なんて滑稽なのだろう。そんな事を考えていると、山田先輩に遊ばれた恥ずかしさよりも私が今まで南に向けてきた小さな嫉妬の方がずっと恥ずかしく感じてきた。

 南ともっと話したくなってきた私は、今から飲みに行こう?と小さい声で言った。「もちろんですよ先輩!私いいお店知ってるんですよ!」そういって私の腕を引っ張って飲み屋の明かりが灯る都会の真ん中をずんずん進んで行った。南のつける香水はいつも甘ったるいのだが、今日つけている香水はとても上品な優しい香りで安心する。今度は強がらずにいい香水だねって伝えよう。南にも、周りの人に対しても、もっと素直に良いところを認めて言葉で伝えていこう。そんな風に思えた私の心はさっきよりもすっきりして、靴擦れして痛い足のために明日の休みはヒールの低いローファーを買おうと開き直ることができた。

 空には満月が出ていた。「先輩知ってます?宇宙には太陽よりも大きい星がいっぱいあるんですよー」南のわけのわからない話にうんうんと頷いていたら、やっと山田先輩の事でバクバクしていた心臓を落ち着かせることができた。今日はいっぱい飲むぞ。そういって2人は仲良く夜の町を歩くのだった。

 ちなみに南がつけていた上品な香りの香水を、山田先輩がパリで買ってきたものだと知ったのはそれからだいぶ先のこと。山田先輩と一緒にパリ出張に行った人から笑い話で聞かされた。山田先輩と私は会社の中で仲が良いと思っていたけれど、それ以上に山田先輩と南は親密な関係だったのだろう。香水の話を聞いて、南が焼き鳥屋の前にいた理由がわかり、自分の為じゃなかったのだと少し寂しくなったが、南はこんな私にも嫉妬したのかなと思うと、何故か嫌な気持ちにはならなかった。南には南にも譲れないものがあって、結局誰だって何かの周りをぐるぐる回るのだ。幸せという定義も人それぞれ違うから、噛み合ったり噛み合わなかったりするのかもしれない。
 今日も皆ぐるぐる誰かの周りを回る。

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