第97回 この力こぶが目にはいらぬか!(ノルウェー)
力こぶを誇示する、カーリーヘアにツナギの少女。
スプレーで吹きつけたグラフィティは、「高い賃金を」「やりがいのある仕事を」「安全な職場を」「選べる仕事を」…さらに下段で、「男の仕事とされていた理数系、石油産業、コンピューター関係の仕事に入っていこうぜ」
ノルウェーの女性首相が閣僚の40%を女性にして世界を驚かせたのは1986年5月のことだった。その数年後、私はオスロの男女平等オンブッド事務所を訪問。そこで遭遇したのが、このポスターだった。男女平等オンブッドは言った。
「これは女子高生向けのプロジェクト『限界を突き破れ!』で作られました。結果は、大学の法学部や医学部の学生の50%が女性になりましたが、まだまだです。中学教育を変えないといけませんね」
当時、私は都立高の教員を辞めたばかり。日本の女子高生は、髪型や服装が厳しく決められていた。名簿は男が先で女が後だった。女子の進学先は4年生大学よりも短大が好まれ、就職先も事務職に限られていた。こんな「限界だらけ」の日本社会にうんざりしていた私は、国を挙げて男女平等を進めるノルウェーに感動した。
つい最近も『限界を突き破れ!』精神とおぼしき出来事があった。ビーチ・ハンドボールのヨーロッパ選手権大会でのこと。ノルウェー女子チームは、「女性用ユニフォームは不快です」とクレームをつけた。
規則はこうだ。「トップスは、胴部分をあらわにして、背中側の袖ぐりを中心に切り込んでいなければならない」「ボトムスは、脚の付け根に切り込んだ形のビキニ・パンティにし、側面の生地の幅は10センチを超えてはならない」
つまり、「女性は露出せよ」なのだ。ノルウェーチームは、男性と同じ短パンで出場すると申し出たが、主催側は「罰金(総額5万ユーロ、日本円で約650万円)を科す」と返答。ノルウェー側は「喜んで払う」と応じた。
ところが、初戦のハンガリー戦直前「失格」をほのめかされて、泣く泣くビキニ・パンティで戦った。しかし次のスペイン戦では短パンで出場。罰金を食らった。
これにノルウェーの文化・平等大臣(男女平等の責任者)アビド・ラジャが怒った。7月21日、彼はツイートした。「こっけい極まる! この古臭い親父クラブを変えるのにどれだけクソ努力をしなければならないのか! 平等の大切さを何もわかってない。最悪だ」
その文化・平等大臣が8月上旬、不平等スキャンダルまみれの東京オリンピック観戦に来日する。見ものだ。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2021年8月10・25日号)
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