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第118回 マウンティングはもううんざりだ(ノルウェー)


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このポスターは、退屈な記念写真ではない。右のノルウェー語がふるっている。

「ヴィーケン・エネルギーの取締役たちです。残念ながら、やらせではありません。ま、ガンバッテネ、男性諸君!」 

ヴィーケン・エネルギーは、配電網や地域暖房事業の大企業だが、取締役の全員が男性だった。そこで、笑いものに使われてしまったのだ。

作ったのは、政府の男女平等法推進機関である男女平等センター。1990年代末から2000年初めのことだ。当時、ノルウェーでは「閣僚の4割以上が女性」は当たり前。そこに現れたのが、この「男だらけの取締役シリーズ」のポスターだった。

ポスター右下にある「女性人材データベース」は、男女平等センターが仕掛けた新プロジェクトだ。リンク先をクリックすると、女性たちの履歴、専門分野、連絡先が出てくる。人材を探す会社がポスト名を打ち込むと、たちどころに女性候補者が現れる。登録者は3000人以上。私が会った同センターの事務局長は「取締役や管理職などトップにふさわしい実績のある女性は、いっぱいいるんです」と言った。

ノルウェー経済界は、こうした痛烈パンチに見舞われて、変わった。2003年、会社法に「取締役クオータ制」が加筆され、2008年から取締役会は女性を4割にせよと命じられた。

さて、わが日本。

女性をもてあそぶメールが公開されてもなお、選挙で圧勝した神奈川県の黒岩祐治知事。確か2015年、彼は女性が活躍するための啓発事業を始めた。そのポスターは、「女性が、どんどん主役になる」とのスローガンを掲げ、黒スーツの男性11人が仁王立ち。黒岩知事を真ん中に、カルロス・ゴーン日産社長、ファンケル社長、富士通社長、横浜銀行社長、資生堂社長…。

主役どころか「脇役でもいいから安定した職に就きたい」と願う女たちの境遇などどこ吹く風の、マウンティング・イメージだ。

マウンティングとは、動物界でオスが優位性を表すために使うしぐさのこと。人間界では、男性が「どうだ」とばかり、上から目線丸出しで女性に接する言動をいう。

マウンティングはまだ、ある。黒岩知事を真ん中に、「女性活躍応援団」と称する男性社長15人衆が座っているチラシ。社長たちは関連イベントの講師になって壇上から社員を啓発するのだとか。

4半世紀前のノルウェーのポスターで、取締役男性たちは笑いものになるのを承知で男女平等センターの撮影に応じたのだという。どうりで、日本の社長たちと違って気恥ずかしそうな笑みを浮かべている。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2023年5月10日号)

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